6月28日の夢 〜盥召喚〜
この日は土曜日で大学は休み。
惰眠を貪っていたときに観たのがこの夢です。
フロイトさん、私は正常ですか?
時刻はおそらく正午を少し過ぎていた頃だろう。
この日は天気も良く、小さな川の土手には弁当を広げている人々が大勢いる。
川幅は5メートルほどで向こう側には森が広がっており、人々の後ろには人が隠れられそうな草むらが所々に茂っている。
ビクニックとも思えず、何か催し物でもあるかと考えたがどうもそうではないらしい。
不思議に思いながらも私は川原の土手に座る人々を見ながら、何処とでもなく歩いていた。
歩き続けていると、何時の魔にか空が薄暗くなっており、勢いの良い水音が聞こえた。
私は不吉な物を感じ、その水音のほうへ走っていった。
すると林を抜けたところに一つの神社(おそらく村社程度の)があった。
神社は鳥居をくぐって正面に舞殿があり、神主と不思議な衣装を纏った巫女らしき人物がなにやら儀式を行ってるのが見えた。
その舞殿の両脇には狛犬には見えない巨大な石像がこちらを威嚇するような感じで存在しており、その口からは大量の水がものすごい勢いで噴出していた。
シーサーを更にグロテスクに、怪物風に仕立て上げたような石像だった。
狛犬は神の眷属・神使の動物と言われ、神域を守るとされている。
ならばこのようなものを眷属とする神とは、一体どのような存在であろうか。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか水が私の膝まで達していた。
慌てて舞殿に近寄っていくと、神主と巫女の声が聞こえた。
「イアッ、イアーーー!!」
私はその呪文を知っていた。
当然だ、本で何度も読んでいたのだから―――――
「それの呪文は駄目だ!!」
そう言いながら止めに入ったはずなのに、何故だか私もその奇妙な呪文を唱えていた。
「イアーーー!! ふんぐるい・むぐるぅなふ―――――」
(何でクトゥルー!?)
そう思いながらも唱えていると、突然、雷光が私の目を焼いた。
そして、全てが治まった。
石像の口からは水の噴出が止まり、薄暗かった空も明るくなっている。
神主も巫女も呪文を止め、呆然としていた。
辺りを見回しても、変化は何も無い。
召喚は失敗に終えたかに思えた。
しかし―――――
「神主さん、大変だ!」
一人の男がそう叫びながら走ってくる。
その声に私たちの意識は急に現実に引き戻された。
男が言うには、川原で異変が起きたという。
私と神主は男に連れられ、川原まで走った。
川原の土手には相変わらず多くの人が座っていたが、その視線は一つの物を見ていた。
小川に一頭の馬が倒れていた。
そして少し離れたところにその首が転がっていた。
私たちは川まで降りてよくよくそれを観察してみると、首は何かに強力な力でねじ切られている様だった。
それは見た私は、やっぱり召喚は成功していてツァトゥグアでも出たのかと思ったが、不思議と恐怖は無かった。
土手の上の観客達は何も言わない。
何とも非協力的だ。
そのとき、後ろの土手の上の草むらで何かが動き、ガサリと音を立てた。
私と神主は思わず動きを止め、その草むらを凝視したが、特に『何か』がいる様には見受けられなかった。
観客達が動かした様子は無い。
彼らはこちらを傍観しているばかりで、後ろの草むらが動いたことにも気付いてない様だった。
私たちは草むらに注意しながら川に沿って歩いてみることにした。
いつの間にか私と神主はアイコンタクトで会話が出来るまでになっていたのだ。
歩いていると何度か草むらで音がした。
やっぱり『何か』がいるのだ。
そして『それ』は私たちを追っている―――――
私たちは走ってみた。
すると『それ』もこちらと同じ速度で追ってくる。
それでも他の人々は気付かない。
まるで人形のようにこちらを見ているだけだ。
そして、草むらが途切れた。
ついに姿をあらわした『それ』、その姿は―――――
――――――――――間違いなく変態だった。
筋骨隆々の巨体に茶色い全身タイツ。
手には槍。
そして何よりもその顔。
「盥(たらい)」だった。
1メートル以上ある盥に人の顔ほどもある二つの巨大な目。
裂けたように大きな口。
盥にそのままくっついているのではなく、きちんと盥には中身があるようだった。
気持ち悪い以外なんでもない。
所々に血がついているのを見ると、どうやら馬を殺したのはこの変態らしい。
土手の上の人々は、この変態を見てパニックに陥り―――――と思ったが、相変わらずこちらと盥男とを交互に見比べているだけだった。
盥男も変だが、こいつらも十分に変だと思った。
突然、盥男は槍を投げてきた。
大したスピードではないのと、もとより的を外れているのとで私たちは簡単に避けた。
しかし盥は何本も何本も投げてきた。
一体何処からわいて来るのか知らないが、兎に角投げつづけた。
私たちは反撃のために、地に突き刺さった槍を何本か引き抜く。
ステンレス製の軽量タイプだった。
ようやく槍が尽きたのか、盥男が土手から降りてきたのを見ると、私たちは槍を投げつけた。
しかし私は槍投げなどやったことは無いので、上手く投げられない。
盥男はそのままこちらに突進してきた。
槍が当たろうとさほどのダメージではないのか、お構いなしに突っ込んでくる。
私は仕方なく槍を盥男の眉間(と思われる)あたりに思いっきり突き立てた。
貫通。
しかし盥男は止まらない。
「――――――――っ!」
このままではぶつかる(轢かれる?)と思った瞬間、何者かに引っ張られ私は間一髪事無きをえた。
引っ張られた勢いで転がってしまった私は、そのままの姿勢で私の襟をつかんでいる人物を見上げた。
助けてくれたのはあの神主かと思いきや、片手にあの槍を持った見知らぬ初老の男だった。
私は彼こそ槍の名手だと直感的に理解した。
「槍っていうのはな、こうやって使うんだ!」
そう言うと彼は、もう一度こちらに方向転換してきた盥男に向けて槍を放った。
見事顔面に命中したが、盥男は構わず突き進んで来る。
老人は両手で槍を握り、中腰で構えを取っている。
(接近戦をするつもりか?)
そう思いながら立ち上がり、私も槍を手に取る。
体に傷が無いのを見ると、どうやら顔を刺すしかないらしい。
盥男は何度も突進してきた。
しかしその度に私たちは、その顔面に槍を突き立てた。
いつの間にか神主はいなくなっていた。
盥男は土手の下まで走り過ぎていた時、足がもつれたのか突然前のめりに転んだ。
老人はその隙に、後ろから盥男の顔面をまるで地面に縫い付けるようにして突き刺した。
そしてそのまま観客のほうへ走っていった。
私は再び起き上がろうとする盥男の後頭部(?)を踏みつけ、更に槍を突き立てる。
そして槍の残りがもう見当たらないことに気付いた私は、今度は観客達の持っている弁当の箸で盥男を突き刺し始めた。
その異常な行為に、私は欠片ほどの疑問も感じることは無かった。
このままでは何時までたってもこいつを殺せないと思った私は、観客に向けて叫んだ。
「誰かガソリンと火を持ってきてくれ!」
しかし観客は何も言わない。
ただこちらを見ているだけ。
一人の女性が箸を持って降りてきた。
私はその箸を借り、尚も足掻く奴を突き刺す。
唇の端が飛び散るのが見えた。
だが相変わらず、不思議と出血は無い。
私は女性にもう一本の箸を突き刺すように言った。
しかし女性は脅えたように首を横に振るだけで、突き刺そうとはしなかった。
私はその女性に苛立ちを感じながらも、起き上がろうとする盥男を思いっきり踏みつけた。
「早く誰かガソリンを持って来い!!」
誰も動こうとはしない。
焦燥感が私を襲っていた。
あとがき
こんなアホくさい文章を此処までお付き合いしてくださった方、どうも有り難う御座います。
これは私が見た夢を小説風にして文章化したものなので、あまり深く考えないように。
クトゥルー関連が出てきたのは昨日「インスマウスの影」を読み返したからだと思われます。
でも盥男などは出てませんでしたが。
矛盾しきった世界観が私にはお似合いらしいのです。
また今回のようにはっきりと憶えている奇妙な夢を見たら、文章化していこうと思います。
あ、どなたかこの夢を分析して、何か不味い傾向があればご一報ください。