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「なーんであんな状態だったのにトップ取れるかな・・・・俺なんてボロボロよ・・今回・・・」
 中間テストの結果が発表された日の放課後のこと。
 伊織は新入生総代の肩書きは、伊達でないことをキッチリと証明して見せた。それに引替え俺はというと、伊織のことばかり考えていた所為で、240人中193番と後ろから数えた方が早い、極めて不本意な結果に終わってしまった。
 辛うじて追試は避けられたものの、監督にはこってり搾られる羽目になった。ウチの野球部は、成績不振者は休部して成績アップに努めなければならないんだ。
「俺が何で空手をやってると思ってるんだ? 精神修行の為に決まってるだろうが」
「えっ、そうなのか? てっきりケンカが強くなりたいからだと思ってた」
「フンッ。そんなのは凡人の発想だ。お前こそ何で野球をやってるんだ?」
「ンなの、カワイイ女のコにモテたいからに決まってるだろうが。何で俺がイチローカットにしてると思ってたんだよ」
 俺はそう答えてからシマッタと思った。伊織の周りの気温が確実に5℃は下がったような気がしたからだ。
「ほぉ・・・充分にモテてるクセに、何を好き好んで俺みたいな可愛げのない男とつきあってるんだか」
「い・・・いや、その・・・今のは口が滑って・・・・じゃなくて・・・・」
 俺がしどろもどろに弁解していると、背後で山野がこれみよがしに声を上げた。
「教室の中でベタベタ見せつけないでよね。ホモのクセに気持ち悪ぅい」
 俺が引きつっていると、伊織は俺の首に腕を巻きつけて、山野を振り返った。
「羨ましいの? 亜南は君より俺を選んだから、今彼氏いないんだって?」
 そして、見せつけるように俺の口唇に音を立ててキスして、妖艶に微笑んだ。
 その悩ましさにクラスのみんなが息を飲んだ。俺もフリーズした。
「な・・・何よっ! ホモの男なんかコッチから願い下げよ!」
 山野のヒステリックな叫びに、伊織はシニカルに笑うとトドメを刺した。
「そのホモの男にフラれたなんて可哀想だね。君、顔だけが取り柄なのに、そんなみっともない形相で怒鳴ると、誰も声かけてくれないよ。その前に、姑息な手段を使う卑怯者だってことがバレてるから、みんな引いちゃってるかな」
 山野の顔は怒りの為に真赤になった。
「あぁ、料理の修行はした方がいいね。今からやって間に合うのかどうかわからないけどね」
 何を言っても伊織には勝てないと悟ったのか、山野は真っ青になると教室を飛び出して行った。
「吉木クンってほんとイイ性格してる・・・」
 根本が肩をすくめた。
「お褒めに預かり光栄だね」
 ニッと笑った美貌は研ぎ澄まされたナイフのように鋭くて、俺は背筋を昇ってくる奮えを隠せずにいた。
 案の定、伊織は俺の耳にこう囁いて俺を恐怖のどん底に叩き落した。
「今度は俺がヤる。尻を洗って待ってろ」

 クラスのみんなは思っているハズだ。伊織だけは敵に回したくないと。
 俺も思っている。
 ウチの料理長殿は、世界最強、無敵だと・・・・





                                         おしまい