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 俺の涙腺はブッ壊れたようだ。
嬉しくても涙は出るんだ・・・・なんて、頭は冷静だったけど、こぼれる涙を止めることはできなかった。
 兄貴も真純さんも最初は話しながらボロボロ涙を流す俺にうろたえていたが、聞き終わると胸を撫で下ろしていた。
「じゃあ、伊織クンは亜南クンちにお嫁に行くってことね? とりあえずはおめでとう・・・なのかな?」
 真純さんは、涙を流し続ける俺を胸に抱いて、祝福してくれた。そして涙に濡れた頬を優しく拭ってくれた。
 あったかいな・・・・何年ぶりだろう? 女の人にこんな風にされるのは。
 俺は母親にも甘えることはなかった。ガキの頃から空手をやってきて、強い男は甘えたりしないもんだと、自分を厳しく戒めてきたから。
 母は、兄貴と年が離れてできた次男の俺と、よくスキンシップをとりたがったけど、照れくさくてガンとして拒否してきたっけ。
 亡くなって初めて、思うんだよな。あの時恥ずかしがったりしないで抱っこさせてあげればよかったって・・・・
 俺はあの時の自分を取り戻すかのように、真純さんの柔らかな胸に顔を埋めた。兄貴はちょっと複雑な表情になったけど、黙認してくれた。でも、後々までイヤミを言われ続けるのかもしれないけど、もう知るか。
 真純さんのつけている香水がほのかに香って、亜南に抱かれているのとは違う安心感に包まれていた。

「とりあえずは、向こうの親に認めてもらえてよかったじゃん。でも、兄貴としちゃ甥や姪の顔が拝めないってのは、ちょっと複雑かな・・・まぁ、男女でも子どものできないカップルはいるんだから、そう思えばいいのか。吉木家の跡取りは俺が作るからいいとして・・・」
「ゴメン・・・兄貴・・・ありがとう・・・」
 ようやく涙も止まって謝った俺に、兄貴は親指を立ててニヤッと笑った。
「近いうちに連れてこいよ。この間カニ玉食っていったカワイイのは弟クンだろ?  是非本人に会ってみたいよなぁ、真純」
 からかいたいだけなんだろうな、と思いながらも、俺は頷いていた。俺だっておもちゃにされてるんだから、亜南も同じ目に合えばいいんだ。
「チェッ、とろけそうなくらい幸せそうな顔しやがって。真純もいつまでも伊織を抱いてないで帰れ。送ってやるから」
 どうやら完璧にヤキモチをやいているらしく、憮然としてる兄貴にクスクス笑いながら、真純さんは俺を解放した。
「うふふ、しークンったら子どもみたい。じゃあ、今夜は帰るわね。おやすみ伊織クン」
「おやすみなさい。ありがとう真純さん」
「亜南クンにいじめられたら、また抱っこしてあげるわね」
 バチッと音がしそうなウインクをして、真純さんは兄貴と出て行った。
 うっ・・・・やっぱり彼女には勝てない・・・・俺ってマザコンだったのかも・・・