目覚めは唐突に訪れた。目を開けたら史朗の寝顔が飛び込んできたので、之は息を飲んだ。
「な・・・なんで・・?」
 慌ててベッドから出ようとしたが、背筋を激痛が走って、再びシーツに突っ伏してしまった。
「う・・・痛い・・・」
 全裸で寝てた上にあらぬ所が激痛の発信源で、之は昨晩史朗にされたことを思い出した。
『夢じゃなかったんだ・・・』
 史朗にキスされて、その後は嵐の中に放り込まれたみたいに訳がわからなくなったけど、この痛みは確かに史朗に抱かれた証拠なのだと嬉しくなった。
 史朗の寝顔をこんなに間近に見ることができる日が来るなんて、之は幸せで涙が溢れてきた。
「ん・・之・・・起きたのか?」
 ぐすぐすと鼻をすすった音で、史朗が目を覚ました。
「ど・・どうして泣いてるんだ? 痛いのか?」
 之が泣いてることに気づいた史朗は、驚いて飛び起きた。
「ち・・違う・・・嬉しくて・・・」
 後はもう言葉にならず、両手で顔を覆って泣き出した之を抱きしめて、史朗は安心したようにため息をついた。
「戻ってきたんだな・・・之・・・」


「ユキっ!」
 史朗が連絡してすぐに元気と茜はやってきた。
「よかった・・・ユキ・・・」
 元気と茜は喜んだが、之の表情に首を傾げた。
「ユキ・・?」
 ソファの上に長々とうつ伏せで寝そべる之は、どう見ても仏頂面で不機嫌丸出しだったのだ。
「元気クンと茜ちゃんが来てくれたことだし、俺はバイトに行ってくるよ・・」
 史朗がこれ幸いに逃げ出そうとしているのはミエミエだ。
「あ、全身痛くて動けない僕をほったらかしにして、史朗ちゃんはバイトになんか行くんだ?」
 之はコッチに戻ってきたと同時に、ワガママ大王が復活していた。
 なんとなく事情を察した茜が之の髪を撫でて言った。
「そんなにダダこねないの。史朗さんがバイト首になったらどうするの?」
「うーっ・・・・」
 之は口唇を尖らせたが、茜の言うことが正しいので、渋々諦めた。
「早く帰ってきてよね」
 史朗は茜に感謝しながらそそくさとバイトに出かけて行った。

「で、とうとう史朗さんと結ばれた訳ね?」
 ニヤリと笑った茜の指摘に、之は頬を染めて頷いた。
「で、全身が痛い訳だ・・・」
 元気が気の毒そうに言った。
「傷の具合はどうなの?」
 茜にズバッと訊かれて、之は茹でダコのように真っ赤になった。
「し・・史朗ちゃんが薬塗ってくれたけど・・」
 でも、切れてしまった局部はズキズキ痛むし、強張って余計な力が入ったため全身筋肉痛で、不機嫌のオーラが之を取り巻いていた。
「粘膜は治りが早いから安心して。とにかく今日は安静にしてなさい」
 茜に髪を撫でられて、之はふくれっ面で頷いた。
「ほらほら、そんな顔してるとブサイクになって史朗さんに嫌われちゃうわよ」
 茜が頬をつつくと、之は慌てて引きつったような笑顔を作った。
「そうそう、そうやっていつも笑顔で、史朗さんのために素直で可愛くいるように努力をしなきゃね」
「努力しなきゃダメ?」
 すねたように見上げてくる之に茜は頷いた。
「リスクだらけなのに、女のコより従弟のユキを選んでくれたのよ。甘えてちゃダメ」
「うん・・・じゃあ、明日からそうする。今日はあちこち痛いから、ちょっと機嫌悪くてもいいだろ?」
 ちょっと身体を動かすのにもヒーヒー涙目になってる之に、茜は苦笑しながら頷いてくれた。

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