「・・飽きられたかな・・・・」
恋人からの連絡が途絶えて1ヶ月。ここのとこ忙しかったので1週間や10日くらい声も聞かないのはざらだったが、1ヶ月も音信不通というのは、つきあいが長いとはいえ、今までに一度もなかった。
向こうからコクってきて、つきあいだしたのは高校2年、17の夏からで、今年で10年目になる。
男同士でヘンかなとは思ったけど、気のいい友達だったし、特に断る理由もなかったので、その場でOKした。
今考えると、男同士だからというのは、十分に断る理由になったと思ったのは、恋人になって1年経った頃だったが、その頃には既に情が移っていたし、受験も控えて別れ話を持ち出すのも面倒で、現在に至っている。
そう言えば、今年に入ってからだろうか。多忙を理由に疎遠になり始めたのは。
こうなってみて思うのは、素直じゃない俺にはもったいないほどの恋人だったと思う。いつでも誠実で優しかった。
男の目から見ても整った顔立ちで性格もいいので、望めばどんな女だって喜んで恋人になってくれたと思うし、実際、何人もの女に言い寄られていたのを知っている。
なのに、何を好き好んで男の、容姿もパッとしない上に捻くれた性格の俺とつきあいたいと思ったのか、未だによくわからない。
俺の名前は秋永和夏(あきながわか)。ゲームクリエイターと言えば今をときめく職業で聞こえはいいけれど、しがないサラリーマンだ。
そして恋人の結城健悟(ゆうきけんご)は、美容師をやっている。
高校を卒業して大学に進学した俺と違って、健悟は美容師になるための専門学校に進んだが、そのときはまだつきあい始めて間がなかったためか、健悟はまめに連絡をくれた。
専門学校を主席で卒業して、割と有名らしい美容院に就職が決まってからも、時間を作っては一緒にいるようにしてくれた。
美容院は土日も営業している。お気楽な学生とは休みが合わなかったが、疎遠にならなかったのは、健悟が俺をカットモデルにするという口実をつけては逢いに来てくれたからだったと思う。
そういえば、自分から連絡を取ることがほとんどなかったのは、健悟が客商売で休憩時間も決まっていないので、仕事の邪魔になってはいけないと、遠慮していたからだったな。
鳴らない携帯を見ていると、自然とため息が漏れた。
「好きなんだ。俺とつきあってくれないか」
明日から夏休みに入る、1学期の終業式。
帰り際、1年の時から同じクラスだった健悟に呼び止められて、校舎の裏に連れ出されて告白された。
「えっと・・・それって・・・」
ありがちなシチュエーションだったが、男同士なのでこういうことだとは思わずにいたから、俺は面食らってしまった。
てっきり俺のことが気に食わなくて、殴られるのかと思ったので、俺はポカンと口を開けて固まっていた。
「もしかして、好きな人いるのか?」
何事にも動じないというイメージなのに、健悟は真っ赤になっていて、なんだかカワイイなと思ってしまった。
「いや・・・いないけど・・・」
「じゃあ、俺の恋人になってくれないかな? ダメか?」
175センチある俺より10センチも長身のクセに、すがるような目で訴えるものだから、ついOKしてしまった。
「別に、いいけど・・・」
ぶっきらぼうに答えたら、健悟の両手が伸びてきて、いきなり胸に抱き締められてしまった。
「えっ・・あの・・」
「うれしい・・・ありがとう・・・」
なんだか健悟の声が震えているように聞こえたので顔を上げると、そっと口唇をふさがれた。
「大事にするから・・・」
触れるだけのキスだった。口唇が離れると健悟はまるで誓いを立てるようにそう言った。
俺にとって、それはファーストキスだった。
俺は熱に浮かされたように、健悟の腕の中で震えていたのを、まるで昨日のことのように覚えている。
そして、初めて身体を繋いだのは、それからひと月経った、夏休みも終わりに近づいた頃だった。
「怖いか?」
健悟のベッドの上で訊かれて、俺は負け惜しみで首を振った。でも、そんな強がりは長く持たなかった。
健悟が俺の身体を裂くような痛みを伴って押し挿ってきた時、俺は恥も外聞もなく泣き喚いて許しを乞うていた。
「痛い痛い痛いっ! いやだぁっ! やめて! お願い、助けてっ!」
「ゴメン・・・・和夏・・ゴメン・・・」
俺のなりふりかまわぬ懇願に、健悟はすまなそうに謝ったが、俺が意識を手放してもやめてはくれなかった。
でも、意識を失うほどのダメージを受けたのは、その初めての時だけで、それから1ヵ月後の、健悟曰く”リベンジ”の2回目からは、どこで知識を得てきたのか、俺を身も世もなく泣かせるテクニックを身につけていた。