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「・・・先輩・・・?」
 意識がハッキリしてくると、湊が憔悴しきった顔で覗き込んでいたので、綾はギョッとなった。
「綾・・・ゴメン・・痛むか?」
「わかんない・・・・なんか痺れてるって感じ・・・・感覚がないんだ・・・」
 自分達がそうなってしまったということを思い出して、綾は頬を染めた。
「ホントにゴメン・・・兄貴にも叱られたよ。穂波も呆れてた・・・今度はもっと上手くやるから・・・許してくれる?」
「許すもなにも・・・痛かったけど最初は死ぬかと思うくらい気持ちよかったし・・・・先輩こそ気持ちよかったの?」
「サイコーだった・・・泣いている綾のこと気遣う余裕ないくらい溺れてた・・・」
 湊が先ほどまでの行為を思い出したのか、うっとりしながら答えたので綾も照れながらも微笑んだ。
「ならいいんだ・・・俺がこんな思いしてるのに先輩がよくなかったら、馬鹿みたいじゃん・・・」
「綾・・愛してる・・・」
「先輩・・・」
 抱き締められている腕に力が込められたので、綾はなすがまま身体を預けた。
「幸せになろうな・・・聖なる夜だから誓うよ・・・大事にするからずっと一緒にいて欲しい・・」
 湊が真剣な表情で言うので、綾もコクンと頷いた。
「誓いのキスをしよう・・・綾・・・・」
「ちょ・・ちょっと待ってよ! せ・・・先輩って、こんなにロマンチストだったの?」
 真赤になった綾の問いに、湊は苦笑した。
「いや・・・あまりにも臭すぎて、自分でも驚いてるところだよ・・・」
 二人は顔を見合わせると、どちらからともなく吹き出した。
 ひとしきり笑っておなかの皮が痛くなった頃、綾がボツリとつぶやいた。
「またからかわれてるのかと思った・・・」
「綾・・僕は最初から綾をからかったりしてないよ・・・・・」
「うん・・今ならわかるよ・・・でも、あの時はホントにからかわれてると思って悲しかったんだ・・・」
 綾は湊にギュッとしがみついた。湊は優しく綾の髪を撫でた。
「先輩・・・大好き・・・」
 湊の胸に頬を摺り寄せた綾は、そのまま夢の国の住人になった。
「おやすみ・・・綾・・・僕の夢を見るんだよ・・・」
 湊は、やっとのことで身も心もひとつに結ばれた恋人の寝顔を、長い間見つめていたが、やがて幸せな気持ちで眠りについた。
 イブの夜、恋人達に幸多かれと、空からは祝福するかのように雪が舞い降りていた。

おしまい♪