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「へぇー、そうだったんだ。マスターの叔父さんが元のマスターだったんだ・・・・」
 8つの瞳が興味津々で恵史の昔話に聞き入っている。翔吾が納得したようにつぶやいた。
「今その人はどうしてるの?」
 徹が好奇心丸出しで訊く。
「中村先輩の転勤について、今は仙台にいるよ。元々薬剤師の資格を持ってたから、今は調剤薬局で働いてるみたい」
「一緒に暮らしてらっしゃるんですか・・・・羨ましい・・・」
 慎司がため息とともにそう洩らした。
「そう。その時、僕はまだ大学生だったんだけど、この店の権利を譲られたって訳」
「マスターって成績優秀じゃなかったっけ? なんかもったいないな・・」
 航の言葉に恵史は優しい笑顔を向けた。
「僕はそうは思ってないよ。この店をやってたからこそ君達とも出逢えたし、今は本当に幸せなんだ」
 その時、ドアベルが鳴って来客を告げた。
「中村先輩!」
 噂をすれば影とはよく言ったもので、仙台にいるはずの中村がフラッと店を訪れたのだった。
「久しぶり。相変わらずキレイだね。マリアちゃん」
 琢磨が片手を挙げるのを、二つのカップルが瞳をキラキラ輝かせて見つめていた。
「な・・何か・・?」
 思わずたじろいだ琢磨に恵史は事情を説明した。

「へぇー。お前らも恋人同士なのか・・・」
 翔吾のとなりに腰掛けて、感心したように琢磨が言った。
「今日はどうしたんです? 仕事ですか?」
 恵史の問いに琢磨は頷いた。
「出張でね。雅人にもタマには里帰りさせてやろうと思ってさ。休暇取らせて一緒に来たんだ。俺は仕事があるから別行動してて、ここで待ち合わせしてたんだけど、まだ来てないのか・・・」
 恵史が頷いたとき、ドアベルが鳴った。
「あれ、琢磨。もう来てたんだ。早かったんだね」
 20年後の恵史がそこにいるのではないかと思わせるような雅人の、衰えることない美貌に、翔吾達4人は思わず息を飲んだ。
「よぉ、中村。元気そうだな」
 雅人の後ろから裕も顔を出した。
「なんだ。熊谷、お前イラクに行ってたんじゃないのか」
「一時帰国ってヤツだ。またスグに行くことになるけどな」
 裕はそう言って、恵史に赤いリボンを差し出した。
「ただいま。恵史」
「おかえり・・・裕」
 恵史はそれを受け取ると裕に抱きついた。
「うわ・・・・」
 目の前で繰り広げられる濃厚なキスシーンに、高校生カップルは顔を真っ赤にしながらも、目を離せずに凝視していた。
「おいおい・・・」
 琢磨は苦笑しながら肩をすくめた。

 今日も【待合室】は早仕舞いするだろうことをみんな確信していた。



                                         おしまい♪