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「女のコがキャーキャー言いながら群がってる分にはイイだろうけど、ガタイのいいヤローに押し倒されないとは限らないからな・・・」
 女のコがウワサしているだけでもイライラしてるのに、思いもかけないことを範義に言われて、建機はムンクの叫び状態で固まってしまった。
「どうすればいいんだぁっ!」
 悲鳴を上げる建機に、教室中の目が集まった。
「・・・・あ・・・?」
「バカ・・・」
 範義は赤面する建機にトドメを刺した。

「由良さぁん・・・・俺以外の男に押し倒されないでね」
 週末でもないのに、橘の帰りを遠藤邸で待ち構えていた建機は、橘の顔を見るなり泣きついてしまった。
「あぁっ!?」
 やっていない浮気を責められているような気がして、橘は建機を睨みつけた。
「だって、俺がいるうちはいいけど、卒業したら守ってあげられなくなるじゃん」
 本気で言っているらしい建機に、橘はげんなりとため息をついた。
「あのな・・・知らないようだから教えておいてやるけど、僕は合気道3段なんだ。そう簡単に男に押し倒されたりするもんか」
「まじっ!?」
 建機の目がこれ以上は無理と思われるほどまん丸に見開かれた。
「だから言ったことあると思うけど、誘拐されそうになったり、クラスメートに迫られたりしたから、自衛のためにやむなくね。でも、僕は・・・・いや・・・いい」
 橘はまだ何か言いかけていたようだけど、言葉を濁した。
「言いかけて止めるなよ。気になるじゃん」
 建機が子どもの頃のようにプーっと頬を膨らませると、橘は一瞬迷ったように目を逸らしたが、白状した。
「自衛のためというのは言い訳で、本当はたっくんを守ってあげられるくらい、強くなりたかったんだ」
「由良さん・・・」
 心なしか橘の頬は赤くなっている。建機は感激のあまり、渾身の力で橘を抱き締めた。
「俺・・・どうしよう・・・・今すぐ抱きたくなってきた・・・・」
 建機の手が橘のスーツの上着を脱がし、ネクタイを解き、シャツのボタンを外しだした。
「たっくん・・・」
 橘の声がいつもより低い。ハッと思ったときには、建機の視界が一回転した。
「いってぇー。ナニすんだよぉ・・・」
 いきなりだったので受身も取れずに床に沈められて、建機は涙目で文句を言った。
「そういうことは週末だけだって約束だろう。今日は夕食が済んだら帰りなさい」
 教師の顔でそう言われてしまって、建機はがっくりした。
「由良さぁん・・・俺のこと愛してる?」
 拗ねて睨む建機に橘は極上の笑みで答えた。
「もちろん。男なのに抱かれてもいいと思えるくらいにはね」
 そうまで言われては完敗だ。建機は苦笑するしかなかった。

「なんだかんだ言って、毎日ノロケるのはやめてくれ」
 彼女いない暦半年の範義がブツブツぼやいた。
「だって、お前しか言える相手いないしぃ」
 目尻をデレッと下げて、建機はシレッと言う。
「だって、とか、語尾を延ばしてしゃべるな! 気持ち悪りぃんだよっ!」
「何とでも言え。今の俺サマの気分は平安時代の貴族だしぃ」
「はぁ?」
 怪訝そうな範義に建機はニヤリと笑って答えた。
「通い婚ってやつ?」
 ガマンの限界を超えた範義にゴィンと頭を殴られても、建機はヘラヘラ笑っていた。
「ダメだ・・こりゃ・・」
 範義はいか○や長介のモノマネで肩をすくめた。

                              はっぴぃえんど・・・(* ̄m ̄)