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「こんなハズじゃ・・・・」
 いつもいつもコトが終わってから、橘はブツブツ文句を言う。
「もう諦めなよ・・ 往生際が悪いなぁ・・」
 建機は毎度のことに、呆れながら言った。
「だって! っつ・・・・」
 大声を出した瞬間、身体に激痛が走り抜け、橘はベッドに突っ伏した。
「ホラ・・・この程度のセックスでそんなにダメージ負うほど体力ないのに、俺を抱くなんて無理な相談だってば・・・」
「うーーーー」
 橘は唸った。確かにそうかもしれないが、橘も男で、しかも建機より年上なのに、いつも抱かれる立場でいることに、大いに不満を感じていた。
「なんだかんだ言って、いつも感じまくってイイ声で鳴いてるじゃん。それとも、センセーは俺をアンアン言わせたいんだ?」
 そう言われると、なんとなく違う気がする。橘は胸に渦巻くモヤモヤをどう言い表せばいいのかわからずに、ジレンマに陥った。
「気持ちよけりゃイイんじゃねーの? こんなのって頭で考えてどうにかなるもんでなし。結局のところ俺のこと好きだからセックスさせてくれんだろ? 由良さん」
 いつもはセンセーと呼ぶクセに、こんなときだけ耳元で名前を囁くなんて反則だ。
 橘は頬に朱をのぼらせると、プイッとそっぽを向いた。
「ねぇ、そんなに怒らないで、教えてセンセー。俺のことどれぐらい好きなの?」
 猛獣の子どもがじゃれつくように、橘に覆いかぶさって、建機が甘える。橘は自分より大きくなった背中にそっと腕を回した。
「おばあちゃまやたっくんの家族を泣かせても一緒にいたいと思うくらい、だよ」
 ぶすっとふくれっ面で橘は言ったのは、この上ない愛の告白で、建機は一瞬頭の中が真っ白になった。
「セン・・・由良さん・・・それって・・・・」
 頭上では天使が団体でファンファーレを奏でている。建機に尻尾があったなら、千切れんばかりに振られていることだろう。
「う、うるさいっ! もういいだろ! 僕はもう眠いんだ」
 橘は照れ隠しにそう叫ぶと、布団を頭までかぶった。
「由良さん・・愛してる・・・・」
 布団ごと橘を抱き締め、建機は囁いた。橘は花がほころんだように微笑んだが、布団をかぶっていたので建機がそれを見ることはなかった。
 もしも見ていたなら、橘は朝まで寝かせてもらえなかっただろう。

「なんか橘センセ、段々キレイになっていくよね」
「最初見たとき、ありえねぇ〜って思ったのがウソみたいだよね」
「絶対彼女ができたんだって」
「見る目だけじゃなく、勇気もあったんだねぇ、その彼女」
「だよね。あのダサイ時のセンセなら声かけられても遠慮しちゃうって、フツー」
「でも、あんなにキレイだったなんて、惜しいことしたよねぇ」
「だよねぇ」
「見てみたいっ! センセの彼女」
「見たい見たい!」
 おしゃべりに余念がない女の子を横目に、ウワサの「橘センセ」の彼女でなくカレシの建機は、尻がこそばゆい思いをしていた。

「お前がカレシだって教えてしまいたい気分だ・・・・」
 ニヤニヤ笑いながら範義が言う。
「そんなことしてみろ・・・」
 建機が睨むと、範義は「おお怖・・」と肩をすくめた。
「する訳ねーだろ。でも、お前も大変だよな。今はいいけど、卒業したらセンセーの側についてらんねーから、心配じゃねぇ?」
「なぬ!?」
 言われて初めて気づいたように建機が目をむく。範義は「これだよ・・・」と首をフルフル振った。