「僕のしたことは許してもらえないだろうか? 昨日は忍が僕の腕の中にいることがうれしくて舞い上がってしまって、つい暴走してしまったことは謝る。だから、僕のことを嫌いになったりしないでくれないか」
「・・・・」
 俺は何も言えなかった。
「忍・・・どうしたら僕を受け入れてくれる?」
 俺が俯いて返事をしなかったので、臣は拒絶されたと思ったのか、悲しそうな声で俺の名を呼んだ。
「忍・・・好きなんだ・・・」
 臣は握り締めていた俺の手を引いた。そのまま俺の身体は臣の胸に倒れこむ形になった。
「あっ・・・」
 息も止まるくらい強く抱き締められた。
「忍・・・・忍・・・」
 臣の声が苦しそうに聞こえる。俺も骨が折れるかと思えるくらい強く抱き締められて苦しいのに、臣はそれ以上に苦しそうだ。まるで溺れる寸前のように、必死で俺にしがみついてるって感じがした。
「ごめん・・・忍・・・」
 あっと思ったときには視界がぐるっと反転して、俺はシーツの波に沈められていた。
「りょ・・・臣・・」
 寮長と呼ぼうとしたけど、名前で呼び直した。
「忍・・・?」
 俺が名前を呼んだので、臣はなんだか鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「俺は・・・・あんな風にクスリなんか使われたのが悔しかったんだ・・・」
 そうだ。臣に好きだって言われたことはイヤじゃなかった。クスリなんかで俺の気持ちを無視されたことが悲しかったんだ。
「俺の身体だけが目当てじゃないなら、どうしてあんなクスリを使って俺の気持ちを踏みにじるようなことしたの?」
 俺の言葉に臣は息を飲んだ。
「そりゃ、あんなに何度も達かされたんだから、身体は気持ちよかったよ。でも・・心は冷えてた・・悔しかった・・悲しかったんだ・・・」
 思い出すとまた涙があふれてきた。臣は黙って俺を抱き起こした。
「忍・・僕はどうすればいい? こんなことは初めてで・・・どうすればイイかわからないんだ・・・」
 頬に熱い雫が落ちてきて、見上げると臣が泣いていたので、俺は驚いた。
「今まで欲しいものが手に入らないなんてことはなかった・・・どうすれば君が僕のものになってくれるんだ?」
 いつも冷静で怖いものなんて何もなさそうな臣が、おもちゃを欲しがってダダをこねる子どものように泣いている。俺はなんだか拍子抜けしてしまった。

 結局のところ、それが決定打となって、俺は臣の恋人になることを承諾する羽目になってしまった。
 なんだかメソメソ泣いてる臣が可愛くなって、背中に腕を回して抱き締めてしまったのが、そう解釈されたようだ。
 内藤会長は、それを『ほだされた』って言うんだって、大笑いしたけど。
 翼はあれから内藤会長に臣を懲らしめるように訴えてたらしいけど、「夫婦喧嘩は犬も食わない」って、全然取り合ってくれなかったって膨れていた。
 今になってよく考えてみたら、お友達を通り越していきなり恋人になってしまったのは早計だったかなと思う。
 だって「夕食後に忍だけに特別な『説明会』をするから」って臣の言葉に寮長室に行くと、ベッドの上にはズラッと大人の玩具が並べられていたんだ。
 回れ右した俺の腕をしっかり掴んで、部屋の鍵をすばやくかけた臣は、嬉々として服を脱がせ始めた。
「明日は入学式だから、そんなに激しくはしないから安心しておいで」
 そんな問題じゃないと思ったけど、抵抗しても無駄な努力なのはわかっていたから、嬉しそうに口唇を重ねてくる恋人の腕に、俺は身を委ねた。
 たくさんあるけど、今夜は一番小さいヤツの説明だけに留めておいてって言おうと思いながら・・・




                                                           おしまい♪

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