「カワイイ・・忍・・キスしたくなっちゃった・・ねぇ、してもイイ?」
俺は返事をする代わりに目を閉じた。
触れ合うだけのキスを俺達は延々と繰り返した。全然セクシャルな匂いのない、本当に慰めるためだけのキス。やわらかい翼の口唇に慰められて、俺の気持ちは段々落ち着きを取り戻した。
ノックの音とともにドアが開いた。
「おや、またじゃれあってますね。この仔猫達は」
「ほっとくとスグこれだ・・・」
臣と内藤会長と呆れ顔で立っていた。
「ほったらかしにしたりしてごめんよ。昨日の後片付けをしなきゃならなかったんだ。僕達がいないから淋しくて泣いてたの?」
俺の枕元に腰掛けて、頬に残った涙の跡を見つけた臣は優しく指で辿る。
内藤会長は無言で布団をまくって、目をまん丸にしている翼をタオルケットで包んで抱き上げ隣の翼のベッドに腰掛けると、自分の膝の上に下ろして抱き締めた。
「俺は今日一日翼とココにいるから、臣はその仔猫を連れて自分の部屋に行け」
「言われなくてもそうしますよ」
臣は裸の俺をタオルケットでくるむと、宝物を扱うように俺を抱き上げた。
「ちょっと待ってよ、寮長! また忍のことレイプするつもりなの? そんなの許さないから!」
内藤会長に抱かれたまま翼が叫んだので、臣は驚いたように振り返った。
内藤会長もギョッとしたような顔をした。
「何だって?」
「昨日、忍をレイプしたんでしょ?」
睨み付ける翼に目を瞠った臣は、ゆっくりと首を廻らせて俺を見た。
「忍がそう言ったのかい?」
臣の顔から血の気が引いていく。俺は何も言えずに目を伏せた。
「忍は何も言わないけど、あんなに泣いたんだから、そうに決まってる!」
綺麗な顔をしてるくせに翼は気が強いんだな。寮長相手に怯むことなく言いたいことを言えるなんて、凄い。でも、内藤会長が一緒にいるからだと思うけど。
「僕の部屋に行こう、忍・・・僕達は話し合う必要がある」
硬い表情で臣は言うと、俺を抱き上げたまま足早に自室に戻った。
臣のベッドに下ろされて、またオレンジジュースを差し出されたけど、俺は受け取らなかった。
「今日は何も入れてないから・・」
臣は少し悲しそうな顔になった。
「あんなことしておいて信じてくれって言うのも虫が良すぎるとは思うけど、僕は本当に忍のことが好きなんだ」
「一目惚れって言ってましたよね。どうして俺なんですか? 翼の方がずっと綺麗じゃないですか。そんなこと言われても信じられないよ」
翼に慰められて気持ちが落ち着いたからか、自分でも驚くほど冷静に話ができる。
「僕が入試の手伝いをしてたって言ったよね。忍が隣の席の受験生と話をしてたのを聞いていたんだ」
隣の席の受験生・・・俺同様、同じ中学から受験する友達がいなくて、不安で泣きそうな顔をしていたから、つい声をかけて励ましたんだ。臣はそれを聞いてたってことかな。
「君は自分も不安で押しつぶされそうな顔をしてたくせに、一生懸命励ましてたね。僕はその時に恋に落ちたことを自覚したんだよ」
『折角ここまで受験しにきたんだから、合格しなきゃ。俺も一人なんだ。だから一緒に合格して友達になろうよ』
そんなことを言ったんだと思う。結局、合格発表の日に会ったときには、お互いに合格していて、抱き合って喜んだ。
「そんな・・・あんなこと、誰だって・・・」
「そうかな。入試直前って普通自分のことで精一杯だろう。人のこと構ってる余裕なんてないはずだよ。君だって余裕なんてなかったはずだ。でも、そんな時に人に手を差し伸べられる君の優しい気持ちに僕は心奪われた・・」
臣はそう言うと俺の手を取った。ひんやりと乾いた感触が俺の指先を強く握り締めた。