27

 翌日、痛む腰をかばいつつのろのろ歩きで駅の改札をくぐったところで、徹はセーラー服の少女に呼びとめられた。
「えっ! 俺っ!? 慎司じゃなく?」
 少女は頬をバラ色に染めてコクンと頷くと、徹にピンクの封筒を差し出した。
「読んで・・・ください・・・」
 蚊が鳴くような声で一言だけ言って、徹が差し出された手紙を受け取ると、友達が待っている方へと駆けて行った。
「キャー! 受けとってもらえたよぉ」
「よかったじゃん! まりの、おめでとー」
 二人の少女は抱き合って喜びあっていた。
「なぁ、慎司・・・コレって、ラブレターだよな?」
 慎司はこめかみがヒクヒクするのを感じながらも、懐の深い恋人を装ってニッコリ笑った。
「このシチュエーションで渡される手紙って、ラブレター以外の何物でもないだろうね」
 慎司の答えに、徹の顔がパーッと喜びに輝く。
「どうしよう・・・あのコ、樫山女学園の制服だったよな・・・可愛かったし・・なんて書いてあるんだろ? 今ここで読んだらダメかな?」
 徹は真剣に悩んでいる。
「もしも『好きです。おつきあいしてください』って書かれていたら、OKするとでも言うのかな? 徹」
 慎司の視線に殺人ビームがスタンバイされていたが、初めてもらったラブレターに有頂天になっている徹には、目に入っていなかった。
「うーん・・どうしよう? なかなか可愛かったしな・・・あのコ・・断ったら可哀想じゃん・・・・」
「徹・・・・」
 まるで地獄の底から響くような慎司の低い声に、徹はハッと我に返った。
「う・・ウソっ! 今の全部ウソっ! 断るよ。マジ! 当然じゃん!」
 ひきつった笑顔を慎司に向けると、徹は身体が軋むのも忘れて、一目散にホームへの階段を駆け上がった。
 慎司は逃げていく恋人の後姿を眺めながら、頭痛を感じていた。
『根っからの女好きだったんだよな・・・・徹は・・・』


 その日慎司が家に帰ると、耀子がスケッチブックを抱えて待ち構えていた。
「あのねぇ、慎ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけどぉ」
 上目遣いで見上げてくる実の姉を見下ろしながら、慎司は唸った。
「お前のお願いなんて、どうせロクでもないものに決まってるから、断る」
「どーして聞く前から断るのよぉ。慎ちゃんのいじわるぅ」
 耀子の目がウルウルしてきたので、慎司はため息をついた。
「聞くだけだぞ」
 慎司の返事に潤んでた目をキラキラ輝かせながら、耀子は一気にまくしたてた。
「あのねっ! アタシの友達も慎ちゃんと徹ちゃんのカラミをデッサンさせて欲しいって言うのっ! 一度でいいから、お願いぃっ!」
「一度、死んでみるか?」
 部屋の気温が一気に零下に下がったのを感じた耀子は、言いすぎたと口を噤んだ。
「う・・・ウソですっ! 今アタシが言ったことは全部、ぜーんぶ忘れてくださいぃっ!」
「少しは人間の言葉が理解できるようになったようだな・・・」
「でも、アタシにだけは見せてねぇ。だって、慎ちゃんに抱かれてアンアン言ってる徹ちゃんって、メッチャ可愛いんだもン」
 ウインクをしながら、自分の部屋に逃げ戻る耀子の後姿を見送った慎司は、今朝からの頭痛が更に激しくなっていくのを感じていた。
『耀子の魔の手から逃れるには、徹の部屋でヤる方がいいかもな・・・ラブホに行くような金はないしな・・・でも、許してくれるかな・・・徹ってばシャイだからな・・・いや、それより、あの忌々しいラブレター女を先になんとかしないと・・・・』


 慎司君の苦悩は、まだまだ終わることなく続きそうだ・・・・・・合掌。

                                                    おしまい♪