「トモ。お前メグの部屋に行けよ」
「えぇっ!?」
 広い客間に3つ並べて敷かれた布団の真ん中に座って、石塚は灯を追い出しにかかった。
「ウソでしょぉ? 先輩ぃ」
「恋人達の熱い夜を邪魔するつもりか? 無粋なヤツだな」
 そこまで言われたら、灯も退散するしか仕方なかった。
「どこへ行くんだ? トモ」
 トイレから戻って来た栗栖が、枕を抱いて部屋を出ていこうとしている灯を見つけて声をかけた。
「石塚先輩に追い出されたんスよ」
 恨めしそうな灯の顔に、栗栖は石塚が何を企んでいるのかを悟った。
「勝っ! お前、ヨソ様の家で一体何するつもりなんだよっ!?」
「まぁまぁ、いいじゃないか・・・・」
 頭から湯気を出しそうな勢いで怒っている栗栖の華奢な身体を布団に引き摺り込みながら、石塚は唖然と立ち尽くしている灯に向かって、シッシッと片手で追い払う仕草を見せた。
「スケベ・・・・・」
 こうなってしまっては諦めるしかなく、灯は枕を抱えなおすと恵夢の部屋を目指した。

「全部話しちゃった・・・」
 自室に敷いた布団に寝転んで、恵夢は放心していた。
(トモはきっと軽蔑したろうな・・・)
 そう思うと恵夢の胸はギュッと鷲掴みにされたように痛んだ。
「LOADはおしまいかな・・・・」
 そう口にした瞬間に恵夢の目から涙が溢れてきて、自分がどれだけLOAD、そして灯に救われていたのかを思い知らされた。
「勝手に終わらせるなよな・・・・」
「トモ?」
 飛び起きた恵夢は、いつのまに入って来たのか、仏頂面を下げた灯が子供のように枕を抱えているのを見て、吹き出した。
「泣くのか笑うのかハッキリしろよ・・・・器用なヤツだな・・・・」
 灯は、両手で顔を覆って声を殺して泣き出した恵夢を、枕を放り出して抱き締めた。
「今日から泣きたい時は俺の胸を貸してやるから、一人で泣くな・・・ずっとそばにいてやるから・・・・」
「ト・・モ・・・・」
 涙で濡れた顔を上げた恵夢は、優しく見つめている灯の視線とまともにかち合って、まるで女のコのように抱かれて泣いているのに気づいて恥ずかしくなった。
「忘れろなんて言わない・・・だから、俺にしとけよ」
「トモ・・ダメだよ・・・」
 首を横に振りながら、恵夢は灯の優しい腕の中から逃れようと身を捩った。
「逃げるなっ!」
 大きな声を出されて怯んだ恵夢は、更に強く抱きすくめられて困惑した。
「メグと・・・ずっと一緒にいたいよ・・・」
 昂ぶる感情を押し殺したような掠れた声で灯が呟いた。
「どうして、俺、なんだ?」
 リチャードと同じことを言われて、恵夢は自分の身体が震え出すのがわかった。
「好きだからに決まってるだろっ!」
 じれったい、という風に灯は叫んだ。
「――――!」
 時刻は午前になっていた。奮えが止まらない。灯にも気付かれてるはずだ。
(まるでバージンの女のコみたいじゃないか・・・)
 そう思ったら逃げ出したいくらいの羞恥が恵夢に襲いかかってきた。
「逃げないでくれ・・・・メグのことは全部聞かせてもらったから、今度は俺のことを聞いて欲しい・・・・ ケガしたことは話したよな・・・」
 恵夢が頷くと、灯はポツポツと話し始めた

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