【恥ずかしくなんかないさ。俺は嬉しいよ。クリスがこんなに感じてくれて・・・】
【だって・・・】
【こんなこと、初めて? 誰かとこんなことしたことあるの?】
 ニヤニヤ笑いながら覗き込むリチャードのエメラルドの瞳から逃れるように顔を背けて、クリストファーは頬を膨らませた。
【知らないっ! リックのイジワル!】
【ほー。イジワルだと思われてるなら、ちゃんとイジワルして期待に応えなきゃな・・・】
 リチャードはクリストファーの身体を裏返しにすると、背後からのしかかった。
【ぐえっ、リック・・・重い・・・】
【明日、レッスンの後にデートしてくれるなら、どいてあげるよ】
 リチャードはクリストファーの耳元で、フッと吐息を吹きかけるように囁いた。
【んっ・・・】
 押さえ込んでいる身体がピクンと反応したので、リチャードはさらに耳朶に軽く歯を立てた。
【やっ・・・あ・・】
【どうする? クリス・・・・デートしてくれるの? してくれないの? 早く返事しないと、どんどんエスカレートするぞ】
 感じやすい耳を愛撫しながら、リチャードの指は背中を這っていた。
【するっ! するから・・・あぁ・・ン】
 嬌声を上げて、クリストファーは降参した。
【じゃあ、レッスンが済んだらドライブしよう。ちゃんと迎えに行くからね】
 リチャードがそう言って、クリストファーにキスしたその時。
【リチャード、帰ってるの?】
 ノックと同時に、リチャードの母親が鍵をかけ忘れたドアから入って来たのだった。


「うわ・・・・ちょっと経験したくない修羅場じゃん・・・・・」
 目をギンギンさせて聞いていた栗栖が、詰めていた息を吐き出すように呟いた。
「修羅場・・・・うん、あれを修羅場って言うんだろうね・・・」
 恵夢は目を伏せた。
「いつもキレイなおばさんが、髪を振り乱して喚きちらしていたからね・・・」
「で、リックは自殺しちまった・・・」
 栗栖の言葉に、灯は恵夢を見ていられなくて、目を伏せた。
「そう・・・リックが俺を連れ出した30分ばかりのドライブが、最初で最後のデートになったよ・・・」
「好きだったのか?」
 灯が口を開いた。
「・・・・好き・・だったんだと思う・・・・リックは、なんでも教えてくれる、お隣の優しいお兄さんだったから・・・・・・でも、恋愛感情で好きだったのかどうかは、わからない・・・」
「キスされてイヤじゃなかったのにか?」
 灯の鋭いツッコミに、恵夢は苦笑した。
「やさしいお兄さんに恋人ができたかもしれないと思って、拗ねてダダを捏ねるガキのような独占欲を、恋だと勘違いしてたんだろう」
 石塚の分析に、恵夢はまた泣きだしそうになった。
「そうかも・・・しれない・・・石塚先輩の言うとおりかも・・・・」
 自分でも訳がわからなくなっていた気持ちを、石塚に言い当てられて、恵夢はやっと楽になれたような気がした。

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