「お前、絶対に笑ってる方がいいよ」
航の華奢な身体を柔らかく包み込むように抱きしめたまま、翔吾は囁いた。
「イヤだ・・・離せ・・・・離せってば!」
いきなり抱き締められて、パニックに陥った航が逃れようともがきだした。
「落ちつけよ。何もしねぇから。でないとまた気を失うだろうが!」
腕に力を込めて航の抵抗を完全に封じ込めて、翔吾は怒鳴った。
抗うことを諦めた航は身体から力を抜いて、翔吾を睨みつけた。
「左半分も同じ色にしてやろうか?」
ドスのきいた声で物騒なことを言うので、翔吾は観念してホールドアップした。
「わーったよ。離せばイイんだろ? 離せば。減るもんじゃなし・・・ケチ」
「ケチだと? どこからそういう文句が出てくるんだ? お前ホモなのか?」
ケチなどと謂れのない侮辱を受けた航は、疑いの眼差しで翔吾を見た。
「いや・・・・男とどうこうしたいと思わないけど、お前とならヤッてもいいかも・・・・」
翔吾の答えに、航は絶句した。
「それって・・・新手のいやがらせか?」
「その調子じゃ、もうすっかり大丈夫のようだな」
「俺をからかったのか? さっさと帰りやがれ! コンチクショー!」
真赤になって怒鳴る航のことをカワイイなんて思いながら、翔吾は顎に手をかけると、毒舌しか吐かない桜色をした口唇を奪った。
ただ触れるだけのキスだったが、翔吾は全身が震えるほど感じた。
いつも冷たいセリフしか出て来ない口唇なのに、蕩けるように柔らかく、燃えるように熱かったから・・・・
「おっ、おっ、おっ・・・・」
「オットセイか、お前は? コレくらい運賃としてもらってもバチは当たらないだろ。じゃあ、明日また学校で」
口を両手で押さえたまま、真赤になっている航をベッドに残したまま、翔吾は部屋を出た。
「で?」
「知りたいか?」
翌日の慎司と翔吾の会話である。
「もったいぶってねぇで、さっさと教えやがれっ! あれから俺達がどれだけ恥ずかしい思いをしたか、わかってんのか! 今度奢れよ、コンチクショー。バカヤロー。ブルマンじゃないと許さねぇからな」
感情ムキ出しの子どものようなセリフは言わずと知れた徹のもの。
「取り敢えずベッドまで抱いていって、抱き締めてキスまで」
このセリフに目を丸くして絶句した二人の表情に、バカヤロー呼ばわりされた翔吾は、少し溜飲を下げた。
「おい・・・お前・・・・ソレって・・・」
「イチローグッズはいよいよ俺サマのものだな。ガッハッハ!」
「う・・・・慎ちゃん・・・翔吾がいじめる・・・」
「ヨシヨシ。泣くな。おにーちゃんがついてるからな」
腰に手を当てて空を仰いでバカ笑いする翔吾の隣で、泣きマネをする徹の頭をグリグリ撫でながら、慎司は愛しげに目を細めた。
『ふーん・・・慎司ってこんな優しげな表情ができるんだ?』
ふと思い至って、翔吾は恐る恐る疑問を口にした。
「なぁ、お前らって・・・・もしかして・・・?」
「なんだ。知らなかったのか?」
事もなげに慎司が言うと、徹が真赤になって否定した。
「慎司のバカ! 何言ってんだよ!? 翔吾も信じるんじゃねーよっ!」
「ボクのハニーはシャイでね。そこがまたカワイイんだけどね」
慎司は外人がやるように、大袈裟に肩をすくめてみせた。まさか、肯定されるとは思わなかった翔吾は、どうリアクションしていいか、困った。