「ドコも悪くないのに病院に行ってたのは、定期検診ってヤツなのか?」
「違う。マリが仕事帰りに転んで骨折したんだ。さあ、飲み終わったなら帰れ」
「随分唐突じゃねぇか。引き留めてみたり帰れって言ったり。一体俺にどうしろって言うんだ!?」
翔吾は本気で腹が立って来た。
「すまない・・・でも、もう金輪際俺に構わないでくれ・・・・」
航は顔を背けて言った。翔吾が見た横顔はなんだか淋しそうに感じた。
「!」
その時、突然視界がクリアになった気がした。
『コイツは手負いの獣だ・・・みんなが差し伸べる手を振り払ってきたのは・・・そうだよ。怖がってたからなんだ』
翔吾は航に手を伸ばした。
「何がそんなに怖いんだ?」
手に触れると、航は弾かれたように立ち上がった。テーブルがガタンと悲鳴をあげると、ティーカップもカタカタと鳴き出した。
「帰れ! 帰れ!帰れってば! もう二度と来ないでくれ!」
全身を震わせてそう叫ぶと、航は糸が切れたマリオネットのようにその場にくず折れた。
航をベッドに寝かせると、翔吾はシャツのボタンに手を掛けた。ボタンを一つ外すごとにあらわになっていく航の白い胸には、縦に長く手術の跡があって、翔吾は思わず目を瞠ってしまった。
そして、その薄赤く盛り上がった傷痕に口唇を落とした時、翔吾の中で何かが弾けた。
『愛しい・・・・?』
他人に対してこんな気持ちになったことは、今までなかった。今まで付き合ってきた女のコにさえ・・・
『俺が守ってやるから・・・もう、何も怖がらなくてもいいから・・・』
眠っている航にくちづけをしながら、翔吾はそう堅く心に誓っていた。
一度溢れ出した想いはもう止まらない。
『俺、航のことが好きなんだ・・・?』
今ならわかる。何故初対面の時に睨まれて苦々しく思ったのか、堕として弄んでやりたいとまで思ったのか、答えは一つだった。
『最初のあの目に惹かれたんだよな』
一目惚れ・・・・
『慎司の徹に対する想いを聞かなかったら、きっとまだわかってなかっただろーな。感謝しねーとな・・・慎司には』
「う・・・・んっ・・・」
「航っ! 気がついたか?」
「なり・・た・・・・?」
航はゆっくりとベッドの上に起きあがると、寝起きの潤んだ目で翔吾を見上げた。
「翔吾だよ。航」
「しょ・・・・ご・・?」
「そうだよ。航・・気がついてよかった」
まだ頭がハッキリしていないような航を抱きしめて、翔吾は航の耳朶に口唇を寄せた。
「好きだ・・・」
唐突な告白に、翔吾の腕の中の華奢な身体がビクンと弾んだ。
「航が好きだよ。愛してる・・・」
「・・・・・・・・・」
「航・・航・・好きだ・・好き・・・・」
まるで免罪符にでもするかのように、翔吾は何度もそう囁いては、航をベッドに沈め、はだけたシャツの隙間から覗く鎖骨に口唇を寄せた。