「一体なんの騒ぎだ?」
登校した翔吾は、掲示板の前にたむろするクラスメートに声をかけた。
「あぁ、成田か。おはよー。見ろよ、コレ。この間の実力テストの結果だよ。ホラ、佐々木を差し置いてアノ羽田がトップなんだ」
翔吾は一瞬何を言われたのか理解できなかったが、掲示板を見て天地がひっくりかえるかと思うくらいビックリした。
1 羽田 航 988
2 佐々木 慎司 986
52 木村 徹 879
78 成田翔吾 823
たった2点の差とはいえ、トップはトップである。
『サギだぜ・・・』
翔吾が今回78位とふるわなかったのは、航とのことでモンモンとしていたからで、普段なら50位前後を徹と仲良くウロウロしている。ちなみに、学年の人数は248人である。
「すごいね。カレ」
いつものように何時の間にか現れた慎司が、銀縁のメガネを中指で押し上げながら言った。
「全く油断したよ。次は俺が返り咲くから」
そんなことを言う割には、慎司はあまり悔しそうではなかった。
「まぁ、頑張れや。しょせん俺らには、縁のない位置だからな」
翔吾は慎司の肩を叩いて励ました。ウインクもおまけにつけて。
「おっはよー。慎司、翔吾。何の集まりだー?」
クラブの朝練を終えたノー天気男の徹が何も知らずにやってきて、掲示板に目を留めた。
「あーっっっ! 慎司が一番じゃねーじゃんかっ! えーっっっ!? 羽田? なんでー!?」
「おい・・朝からいいテンション保ってるじゃん・・・」
翔吾はこめかみを押さえながら、叫んでいる徹をからかう。
「だって・・・うそだよ・・・こんな・・・なんで俺の慎司が2番なんだよー」
徹は最初の大声もどこへやら、だんだん涙ぐんで声も小さくなってしまった。
自分が今、何を口走ったのかわかっていないらしい。
「徹、うれしいよ」
慎司は俯いてしまった徹の頬に手を伸ばして幸せそうに微笑んだ。
「次は名誉挽回するから、泣くんじゃない・・・」
そう言われてハッと気付いた徹は、ボンッと音がするくらい一瞬のうちに真赤になって、慌てて慎司の手を振り払うと脱兎の如く逃げ出した。
「またサボリか? 慎司」
翔吾が茶化すと、慎司は肩を竦めた。
「そういうこと。授業よりハニーの方が大切だからね」
「チェッ。ひとりモンの前で堂々と惚気てんじゃねーよ。さっさと行ってやれって」
「ん? ホントにひとりモンなのか?」
ニヤッと意味深に笑って、慎司は徹を追いかけていった。
『相変わらずスルドイ・・・』
もしかしたら慎司は人の心が読めるのかもしれないと、翔吾は思った。
「おはよう、成田。いつも仲がいいんだな、お前ら」
後ろから声を掛けられて振り返ると、そこには航が立っていて、翔吾はびっくりした。
「お・・おはよう・・えっと・・身体はもうイイのか?」
まさか、昨日の今日で航の方から挨拶をされるとは思っていなかったので、翔吾はしどろもどろだ。
「俺はなんともないって言ったろ? お前が無茶しなかったしな」
『こんな日常会話ができるなんて・・・』と、翔吾は感激してしまった。