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「そうそう、お前って頭良かったんだな。トップじゃん」
「なんだ? 唐突に・・あぁ、実力テストの結果か・・・」
「お前水くせーじゃん。こんなに頭イイなんて一言も言わねーから、俺バカみたいにお前が休んだ日のノート取ったりしてさ・・・」
 ブツブツぼやいている翔吾を見て、航は盛大に吹き出した。
「ひっでーな。そんなに笑わなくてもいーだろうが! やっぱ俺のことバカにしてんだろー!?」
「違うよ、ゴメン。バカにしてるとかじゃなく、嬉しかったよ。あのノート」
 笑いすぎてこぼれた涙を拭きながら、航は次の台詞で爆弾を落とした。
「俺、ダブッてるんだ。だからこれくらいの点数当然だろ?」
「えっ!?」
「なんだ・・知らなかったのか?」
 航の言葉の意味を理解した途端、翔吾はホワイトアウトしそうになった。
「全然知らなかった・・・・」
『年上・・・? ウッソー・・・』
 卒倒しそうになるのを必死で堪えて、聞きたいことを口にした。
「え・・と・・じゃあ、今年18になるってこと?」
 しかし、航の答えは翔吾をノックアウトさせるに充分な威力を持っていた。
「いや・・・俺4月生まれだから、既に18」
「ゲッ、まじ? そんなのズルイー。俺3月に16になったばっかりだってのにー」
 ベソをかきだした翔吾に、航は情け容赦なく追い討ちをかけた。
「なんだ。そんなにでかい図体してるクセに、お前って早生まれなのか。じゃあ、年齢的には2つも年下なんだ?」
 愕然としている翔吾の背中をバンバンと叩くと、航は笑いながら教室に向かった。
 後には呆然と見送る翔吾と、初めて見る陽気な航に、信じられないといったマヌケな顔を晒しているクラスメートの山が取り残されていた。


「わったるー。一緒に帰ろーぜ」
 授業が終わるなり、翔吾は航に擦り寄って行った。今朝ほど受けたショックの後遺症はないようだ。
 クラスメートに緊張が走る。
「なんで、この俺が、お前なんかと一緒に、帰らなくちゃならねーんだ?」
 懐く翔吾をからかってやりたくて、航はわざと言葉を区切ってゆっくり言ってやった。
「冷てーな。昨日はあんなに潤んだ色っぽい目で俺のこと見つめて、甘い声で『翔吾』って呼んでくれたクセに・・・」
 イジケた翔吾は、息を詰めて見守るクラスメートの前で、知らず超ド級の爆弾を落としたことに気付いてなかった。
「なっなっなっ、何言ってんだっ!? このバカっ!」
 一瞬のうちに真赤になった航は、翔吾の後頭部をゲンコツで殴りつけると、あまりの爆弾発言に固まってしまったクラスメートを押しのけて、教室を出て行ってしまった。
「イッテェー。あいつまじでブン殴りやがって・・・頭の形が変わったらどうしてくれるんだ!?」
「当たり前だ・・・バカ・・」
 後頭部をさすっている翔吾の後ろに、またまた何時の間にか来ていた慎司が、心底呆れたといった風にため息をついた。
「お前みたいなバカに魅入られた羽田が、本気で気の毒になってきたぞ・・・俺は」
 徹までがその隣で、処置なしといった風にフルフルと首を振っていた。
「うっせー。言ってろ。でも、俺サマの勝ちは確定したも同然だもんねー」
「マジっ!? もう、ヤッちまったのか?」
「下品な言いかたはやめてくれないかな。徹クン。それはこれからのお楽しみだよ」
 フフンッと、翔吾は鼻で笑った。
「マジぃ?」
「マリナーズグッズは、いよいよ俺サマのモノだな」
 ガックリ肩を落とす徹の横で、黙って話を聞いていた慎司が口を開いた。