「賭けに勝つということは、羽田を堕として弄ぶということなんだぞ。翔吾、本当にそれでいいのか?」
「慎司? 今更何言ってんだよ。いいからこそ、今から航んちに行って、勝負キメてくるんじゃねえか」
慎司の言おうとしていることの真意がわからないまま、自信満々で言いきった翔吾は、意気揚々と教室を出ていった。
「バカ野郎・・・賭けは堕とすだけじゃないだろうが。自分の言った事も忘れやがって・・・完璧に惚れちまったくせに、弄んで捨てるなんてことできる訳ないだろうが・・・」
慎司のその小さな呟きを聞いた者はいなかった。
「航! 航ってば、待ってくれよー!」
翔吾の呼びかけを完璧に無視して、航は振り返りもしないで怒ったようにズンズンと大股で歩いていくので、業をにやした翔吾は大声で叫んだ。
「わったるー! 愛してるよぉー!」
次の瞬間、物凄い形相で振り返った航は、ドス黒いオーラを纏ったままつかつかと翔吾の前まで戻ってくると、まだうっすらと青痣の残っている右の頬にパンチを食い込ませた。
「らりすんらよー!?」
「なにすんだよだと? わからないようなバカには用はないっ!」
きっぱりと航は言いきると、頬を押さえて涙を滲ませている翔吾に背を向けた。
もちろんそんなことでくじける今の翔吾ではなかったので、そのまま航の部屋の前までついていった。
「厚かましいヤツだな。招待した覚えはないぞ」
「いーのいーの。愛があるんだから」
後ろ手にドアを閉め、ずうずうしくも部屋まで上がり込みながら翔吾は言った。ドサクサに紛れて鍵までかけていたことに、航は気付かなかった。
「よくもそんなクサイ台詞が言えたものだな・・・感心するよ・・決して褒めてる訳じゃないからな」
「感心はいいからキスして・・・」
そうささやくなり、翔吾は航の腕を捕えると胸に抱き寄せて口唇を重ねた。
「えっ? ・・・・・んっ・・・」
いきなり、恋人同士が交わすような深いくちづけをされて、自分でも信じられないくらい甘い声が漏れて恥ずかしくなった航は、身を捩って翔吾の腕から逃れようとしたが、翔吾の腕にますます力が込められる結果になってしまった。
「航が好きだ・・・欲しいよ・・・・・抱きたい・・・」
舌を絡ませて熱くなってしまったくちづけを解いて、細い首筋に口唇を這わせながら翔吾はそう囁いて航を求めた。
「イ・・ヤだ・・・離せよ・・・このバカっ!」
「離さない」
勝手知ったる航の部屋に、有無を言わせず抱き上げていって、翔吾はベッドの上に航を沈めた。
「成田・・冗談はやめてくれ。俺、こんなのイヤだ」
「翔吾だよ。航・・・名前で呼んで・・」
怯える航に圧し掛かって、翔吾はシャツのボタンに手をかけた。白いなだらかな胸の手術痕があらわになると、口唇で癒すようになぞっていった。
「やめろよ。俺、女じゃねーよ。頼むから・・・離してくれ」
震える声で航が懇願しても、翔吾は愛撫の手を止めることはなかった。細い両手を一まとめにして片手で押さえつけ、拒絶の言葉を吐きつづける口唇を自分のそれでしっとりと封じ込め、ベルトに手をかけたその時・・・・
「お前もアイツと一緒だったのか・・・・・」
顔を背けて吐き捨てるように言われた言葉を、翔吾は聞き逃さなかった。
「なんだって? どうゆーことだ、それ? アイツって誰のことなんだよ?」
「知ってるんだろ? なんで俺が転校してきたのか。センコーにヤラレそうになって、挙句の果てに殺されかけたからだって。みんなで散々ウワサしてくれてたじゃねーか!」
「なんだよ、ソレ・・・そんなこと知らねーよ・・・ウソだ、そんなの・・・」
あまりの衝撃に、翔吾は航を抱くのも忘れてベッドの縁に座り込んで頭を抱えた。