20

「好きだよ。航・・俺の名前を呼んで・・・」
 耳許で囁くと、航はうっすらと目を開けた。
「しょ・・ご??」
「そうだよ。航・・・もっと呼んで・・・」
 そう言うと翔吾は、二人の間で力を失っている航自身に指を絡めると、やんわりと揉みしだきながら腰を使い出した。
「ヤっ・・翔吾。翔吾・・翔吾ぉ・・・」
「う・・航・・イイよ・・・サイコー」
 掠れた声で名前を連呼されて興奮した翔吾は、まるで初めての時のような余裕のなさで闇雲に動いた。
 腰をガンガン打ちつけているうちに、翔吾の背中に爪を立てていた航の手から力が抜けて、シーツの上に投げ出された。
「航・・? ごめん・・・」
 今日、何度口にしたかわからない謝罪の言葉を呟いて、翔吾は意識のない航の内奥に灼熱を迸らせた。


 再び航が意識を取り戻した時、部屋の中は真っ暗だった。暖かいものに包まれているのを感じて目を凝らすと、翔吾に護られるように抱きしめられているのに気付いた。二人とも裸のままのようだが、翔吾が清めてくれたのか、ベタついた感じはしなかった。
 喉がカラカラに乾いているのを感じて、水を飲みに行こうと身体を捩った途端、航の全身に激痛が走った。
「どうしたッ!? 航、痛むのか?」
 航が上げた悲鳴に驚いて飛び起きた翔吾は、青ざめ脂汗を流している航を見ておろおろしだした。
「薬持って来ようか? 俺、何したらいい?」
「薬も欲しいけど、喉乾いた・・・水をくれ・・・」
 ベッドに突っ伏したまま航が言うと、すっ裸のまま翔吾は下僕よろしくテキパキと動き出した。
「今何時だ?」
「11時半だよ」
「帰らなくてもいいのか? お前、メシはどうしたんだ?」
「ん? 親には電話入れといた、友達ンちに泊まるって。メシはコンビニで買ってきて食った。お前の分も買ってあるけど、食うか?」
「食えねぇよ。食欲なんてあるもんか」
「やっぱそうか・・・腹ン中掻き回されたんだもんなぁ・・・ごめんな。痛むか? でも、あんまり出血してなかったぜ」
「ばっ、バカ野郎! 謝るくらいなら始めからあんな無茶するなっ! 死ぬかと思ったんだぞ、こっちは」
 航は腕を振り上げたが、全身に走る痛みに翔吾を殴るのは断念して、睨みつけるだけに留めておいた。
「うん、ごめん。でも俺、航とこうなれてめっちゃ嬉しい。大好き、航。愛してる・・・」
「翔吾・・・」
 甘い囁きとともに、ふんわりと抱きしめられて、航は目を閉じた。すると、掠めるだけのキスが落ちてきて、すぐに離れていった。
「や・・・もっと・・・」
 甘えたようにねだられて、翔吾の口唇は再び航の元に降りていった。
「ん・・・っ・・・」
 どんどん深くエスカレートしていくくちづけに、航は苦しくなっていった。吐息まで奪われて限界が見えかけたときに、唐突に解き放たれて航はシーツに沈み込んだ。
「初めて俺を欲しがってくれたね」
「翔吾・・」
 肩で大きく息をつきながら、航は翔吾に両手を差し伸べた。
「ねえ、俺のこと好きだって言ってよ・・・航・・・・」
 航をシーツに縫い止めながら、翔吾は耳許で囁いた。航の腕が翔吾の背中にしなやかに絡みついた。
「好き・・・・翔吾・・・信じても・・いい・・の?」
「うん、いいよ・・・」
 それを聞いて安心したのか、航は翔吾に抱かれたまま再び眠りに落ちていった。航の寝顔は幸せに輝いていたが、それが一夜限りの儚い夢だと、誰が気付いていただろう。