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「翔吾・・・大丈夫か?」
「慎司・・・・俺・・・」
「泣くほど辛いのか?」
「えっ? 俺、泣いてる・・・?」
 翔吾が思わず頬に手をやると、徹が黙ってくしゃくしゃのハンカチを差し出した。
「無理すんなよ」
「サンキュ、徹。大丈夫。許してもらえるまで、気長にやるさ・・」
 翔吾は笑ってみせたが、誰の目にも泣き顔にしか見えなかった。
 航は、見ないようにしていたはずのその横顔を、顔を背けることで視界から追い出した。


 学校からの帰り、航は母マリの病室に来ていた。
 単なる腕の骨折だと思っていたら、強打していた腰の骨にもヒビが入っていて、絶対安静を余儀なくされていたので、入院が長引いていたのだった。
「何かあったの? そんな顔して」
「別に・・・」
 航はふいっと視線をそらした。
「成田クンだっけ? 彼とケンカでもしたかしら?」
「違うっ! あんなヤツ、カンケーないっ!」
 図星をさされた航は大声で否定した。
「ケガ人の前で大声出さないの。肯定してるようなものでしょ?」
「う・・・」
 赤くなった顔を伏せた航に、マリは追い討ちをかけた。
「あの人にそっくりね・・・彼」
「マリ・・・・なん・・で・・?」
 弾かれたように上げた顔に驚愕を貼り付けている航に、マリは苦笑した。
「バカね。いくら顔が腫れていたからって、私が気づかないはずがないでしょ? コウもやんちゃだったから、しょっちゅうあんな風に男前になってたしね」
「・・・・・」
「ビックリしたわ。初めて成田クンに逢った時。コウが生きて戻ってきたのかと・・・19で逝っちゃったのにね・・・」
 そう言ってマリは目を伏せた。
「マリ・・・淋しい?」
「少しはね・・・でも、私には航がいるから。コウが残してくれた、コウと同じ名前の航がいるから幸せよ」
 マリは微笑んでみせたが、航にはやはり淋しそうに見えた。
「コウって、航って字を書くんだ?」
「そうよ。あのとき私はまだ15で結婚できなかったけど、誕生日が来たらスグに入籍するつもりだった。あの事故さえなかったら・・」
「父さんと話をしてみたかったな・・・」
「生きてたら37ね。どんなオジサンになってたかしら・・・? 成田クンは顔だけでなく、雰囲気まであの頃のコウにそっくりだから、これからおつきあいが続くなら見られるわね」
 マリの言葉に、航は目を瞠った。
「翔吾とは・・・・ダメなんだ・・・もう・・・終わったから・・・・」
 航が俯いて視線を床に落とした途端、雫がパラパラとこぼれた。
「航・・・あなた・・・・」
「俺、帰る。また来るから・・・」
 これ以上の醜態を晒す前にと、航は鞄を掴むと病室を飛び出した。
「友達じゃなくて、恋人だったんだ・・・? トレンディーな息子に育ったわね・・・・コウ」
 母親は寛大な生き物であった。