「お前も早くしないと、遅刻するぞ」
シャワーを済ませてさっぱりした航は、着替えながら翔吾を促した。
「今日は休まない?」
しかし、翔吾は甘えた声でサボリを提案してきた。
「なんだと?」
「今日は休んで一日中愛し合おうよ。成績イイんだから、一日くらいどうってことないっしょ?」
ドカッ! バキッ! ゲシゲシゲシゲシゲシッ!
「痛い痛い痛い痛い痛いよ。航」
「ここで蹴り殺されたくなかったら、さっさと支度しろっ!」
背後に怒りのオーラを纏った航に凄まれた翔吾は、すごすごとシャワールームに向かった。
「ねぇ、考えなおしてよ」
ドアを閉める寸前にひょいと顔を出して、未練たらしく呼びかけてみる。
バシーン!
いきなり枕が飛んできて、交渉決裂と諦めた翔吾は大人しく従う事にした。
『あんなにデカイ図体なのに、アイツったら凄い甘えん坊だったんだな・・・きっと末っ子かも・・・・』
そう思ったらなんだかおかしくなってきた航は、腹を抱えてゲラゲラ笑い出した。あんまり大声で笑ってるものだから、ヘンに思った翔吾がシャワーを浴びるのもそこそこに、飛び出してきた。
「ど・・どーした? ヤリ過ぎておかしくなっちゃったのか? 航」
ヒクッ
航の表情が一瞬にしてブリザードモードに変わった。
「ナニをヤリ過ぎて、俺がどうかなったって?」
言葉の端々に、氷の棘が見え隠れしている。翔吾は口が滑った事を悟った。
「い・・・いや・・・・単なる独り言・・・気にするな・・・」
翔吾は触らぬ神に祟りなしとばかりに、そそくさと支度を始めた。
「生きているお前を、みすみす失うことはバカのやることだと思ったんだ」
登校途中で、航がそう切り出した。
「は? 話が全然見えねーんだけど」
翔吾は、目を丸くした。
「マリが、死んで18年以上経つのに、俺の親父を想い続けてるのを見てさ・・・こんな性格の悪い俺のことを想っていてくれるお前のことを、無下にしたら絶対に後悔するんじゃないかなって・・・」
「航・・・・」
「そう思ったんだよ・・・素直になってみるのもいいかなって・・・」
「そうだよっ! 俺もそう思うぞっ! 絶対その方がいいって、航」
「突っ張っていきがってるのは、結構辛かったんだ・・・」
航は目元を桜色に染めて俯いた。
「愛してるよ、航」
バキッ!
「ってえー! 何すんだよっ。いきなりっ!」
涙目で翔吾が抗議すると、航は怒りで顔を真っ赤に染めていた。
「天下の往来で、こっ恥ずかしい事抜かすんじゃねえっ!」
「俺を別の道に目覚めさせるつもりか?」
「しょーごぉ・・・・」
航の額に縦線を見て取り、脱兎の如く逃げ出す翔吾を追いかけて校門をくぐると、いつもの二人組がいた。