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「助けてくれぇ! 慎司、徹!」
「翔吾?」
 慎司が振り返る。
「あれ? 羽田じゃん・・・」
 徹は目ざとく、走ってくる航を発見した。
「待ちやがれっ、翔吾!」
 航がゼェゼェと荒い息を吐いて翔吾に追いつくと、慎司はニヤッと笑った。
「朝っぱらから痴話喧嘩か? 昨日まで翔吾はベソかいてたのに、何時の間にそんな関係になったのやら・・・」
 慎司がからかうと、航は火を噴き出しそうな勢いで否定した。
「痴話喧嘩なんかじゃねぇ! だれがこんな恥知らずと・・・」
「航っ! ソレって酷くねぇ? ゆうべはあんなに熱く愛を確かめ合ったってのに・・・航だってヨガッてたくせに・・・・」
 爆弾発言に、まわりにいたギャラリーはギョッとした。
 ドカッバキッゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシ!
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いってば、航」
 踏みつけにされながらも、翔吾は幸せそうに笑っていた。
「おい・・・翔吾ってマゾだったのか?」
 徹がこっそりと慎司に訊いた。目がテンになっている。
「さあね・・・熱く愛を確かめ合ったそうだから、もしかしたらソッチ方面に目覚めちゃったのかもね。どう、徹も試してみるかい? 最初は軽く縛るとこから・・・・」
 バキッ!
「慎司のバカッ!」
 徹は真赤になって逃げ出した。
「ふぅ・・また授業をサボらなきゃならなくなったな・・・本当にボクのハニーときたらシャイなんだから・・・」
 慎司は『手始めに制服のネクタイで縛ってみよう』などと、アブナイことを呟きながら、徹を追いかけて行った。
 後に残されたのは、すっかり毒気を抜かれた航と呆気にとられた翔吾、そして、好奇心丸出しで成り行きを見守っていたギャラリーの皆さんであった。
「なぁ、翔吾。佐々木って賢い奴だと思ってたんだけど、ホントは紙一重でアブナイ奴だったのか?」
「いや・・・俺も今初めて知って驚いてるトコ・・・・恋人同士なのは、聞いてたけど・・・」
「ふーん・・・木村も気の毒に・・・・」
 航は、翔吾がそういう意味ではノーマルでよかったと思っていた。
「それはそうと、走っても大丈夫なのか? 航」
「ん? あぁ、フルマラソンは無理だけど、体育の授業くらいなら大丈夫だ。着替えるのに恥ずかしいからサボッてばかりだけどな・・・」
「なんだ・・・しょっちゅう気絶するからマジで心配してたんだぜ」
「あ・・あれはお前が悪いんだろうがっ!」
「あれ? そうだった?」
 翔吾はすっとぼけた。
「そんなにヨかった?」
 航の耳許で囁くと、また追いかけっこが始まった。