お誂え向きに1時間目は自習ということもあって、羽田航は質問責めにあっていた。
「どこから来たの? 誕生日は? 血液型は? 恋人はいるの?」
矢継ぎ早の質問は、新聞部の松田だ。どうやら号外を出すらしい。
「君キレイだね。演劇部に入らないか? 今日からでも青陵のアイドルになれるよ」
男子校の常で慢性的に女役不足の為、副部長の森は必死で勧誘している。
「俺、写真部なんだけど、モデルになってくれないか?」
父親が有名なカメラマンの朝倉も、やっと撮る意欲が湧くモデルを見つけて、嬉々としている。
『おいおい・・・お前ら、ソイツがいくらキレイだからって、女のコじゃないんだから・・・』と言おうとして、翔吾はギョッとした。
睨まれていたのだ。彼、羽田航に。
「翔吾、知り合いなのか?」
慎司が訝しげに訊いてきた。
「まさか。なんでそんなこと訊くんだよ?」
「あーんなに熱烈な眼差しで見つめられちゃってるじゃん。ホントーに知らないのか? それとも、一目惚れされちゃったか? 流石はタラシの翔吾サマだな」
「徹・・・冗談でもそんな大声で言うなよ・・・・」
翔吾が思わず頭痛を感じて額に手を当てたその時。
「うっせーんだよ・・・俺に構うんじゃねぇ・・・」
航が唸るような低い声で言い放ったのだった。
「なにっ!?」
『今、何て言った? コイツ・・・』
翔吾が目を丸くしていると、クラスのみんなも信じられないといった表情で、目を瞠っている。一瞬の静寂の後、クラスは騒然となった。
しかし、航は言葉を継いだ。
「委員長・・・自習なんだろ? こんなに騒いでいていいのか?」
突然話を振られた慎司がプリントを掲げて騒ぎを治めにかかった。
「ハイハーイ。皆さん着席して下さいねー。課題のプリントは3枚。できなかったら宿題になりますから、サクサク片付けた方がいいですよ」
「ゲゲッ!」
「オニかよ。沢田のヤロー!」
「なんで休んでんだぁ!?」
「どうせまたフラレてヤケ食いでもして腹壊してんじゃねえのー?」
「ギャハハハ。ビンゴー!」
たった今起こったことを、なかったことにしてしまおうとするかのように盛りあがってるクラスメートを横目に、翔吾の視線は口は悪いが美貌の転校生に釘づけになっていた、らしい。
「・・・・・惚れたか?」
ギクッとして翔吾が振り返ると、慎司がチェシャ猫のような薄笑いを浮かべていた。
「ち・・違うぞ! 何言ってんだよ。アイツの態度が気に入らないと思ってただけだ」
「ジョーク・・・・そんなにムキになってると、返って怪しまれるぞ」
ニヤッと慎司が笑う。思わずキレそうになった翔吾に、徹が声を掛けてきた。
「俺もそう思う。美人だかなんだか知らないけど、生意気だよな。シメるか?」
「徹! 何物騒なこと言ってんだ!?」
流石の物言いに、慎司が委員長らしく窘めた。
「シメるってヤバくないか? 何か違う方法で目にモノを見せてやろうぜ」
いつもなら他人のことには無関心の翔吾を、何がそこまで駆り立てるのか、その時にはわからなかった。
「翔吾までバカなこと言ってるんじゃないよ。悪いことは言わないから、さっさとそのプリントを片付けちゃった方がいいんじゃないか?」
「そうだな。徹、その話は後でな」
「おぅ。休み時間にでもな」
しかし、それきりその話はうやむやになってしまった。