「何か用か?」
航に氷の視線で射貫かれたが、翔吾はひるむことなく口説きにかかる。
「冷たいこと言うなよ。俺達クラスメートじゃないか。仲良くやろうぜ」
「迷惑だ」
間髪を入れずに、吐き捨てるように拒絶の言葉が返ってくる。
「そこまで言う? フツー。何もとって食おうってんじゃないんだからさぁ・・・・ ただ俺は・・・・」
「ただ、何だ?」
「帰りに、一緒にゲーセンでも行って遊ばねーかなと思って・・・カラオケでもイイけど・・・」
睨みつける瞳に気圧されまいと用件を言うと、航は口唇の端だけを持ち上げて酷薄に笑って見せた。
「俺みたいな鼻つまみモンを誘わずに、いつもツルんでるお友達と一緒に行けばイイじゃん。冷血漢で自閉症で生意気でタカビーな俺なんかと行くより、よっぽど楽しいと思うぜ」
航は、自分がクラスメートに何て言われているか、知っていたようだ。自嘲的な言葉を、翔吾はさえぎった。
「やめろよ。自分をそんな風に言うのは・・・」
みんなが航のことを何てウワサしているかは、翔吾も知っている。実際、自分も同じように思ってるから、徹とこんな賭けをした訳だし。
でも、それを航の口から聞かされるのは、決していい気分じゃなかった。翔吾は自分で思っているほど、ワルじゃなかったのだ。
「わかってるなら、もう二度と俺に関わろうなんて思わないこった」
そう言うと、航は手をヒラヒラ振って帰ろうとした。
「待てよ! 航」
「航なんて、呼ぶんじゃねぇっ!」
負いかけようとした翔吾の呼びかけに振り返って叫んだ航の目は、あの日と同じ、睨み殺さんばかりの迫力で、翔吾の足はその場に縫い止められたように動けなくなった。その間に航は帰ってしまい、その日の翔吾は諦めざるを得なかった。
「苦戦してるね」
朝のホームルーム前、オブザーバーの慎司がシレッと言う。
「おもしろがってんじゃねぇよ。腹立つな・・・このヤロー」
日頃からあまりよろしくない目付きが、ここ数日更に凄みを増してきた翔吾に、徹も横からチャチャを入れる。
「まぁまぁ翔吾、そう熱くなるなよ。諦めはついたのか? 桜花女学院の麻紀ちゃんはじめ、カワイコちゃん達が俺を待ってるんだからさ。早くその手帳を俺に寄越せよ」
「徹・・・・」
慎司は仕方ないなとでも言うように、ため息をついた。
「バカ言ってんじゃねぇよ。まだ勝負はついてないだろうが。お前こそあのイチローグッズを手放す決心はついたのか?」
挑発し返した翔吾に反論しようとした徹の口を塞いで、慎司はまたさっきよりも大きなため息をついた。
「低レベルの争いはやめなさい、二人とも。実力テストが近いんだからさ・・・」
慎司の爆弾発言に、翔吾も徹も顔を見合わせた。
「なんだと? そんなもんがあるのかよ!?」
「聞いてねぇよ! そんなこと」
ぶうぶう文句を垂れる二人に、慎司は苦笑した。
「当たり前だ。これから発表されるんだから」
そして担任が教室に入って来て、慎司の予言通りに実力テストの要綱が発表されたのだった。