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「羽田、一緒に勉強しないか?」
 翔吾のアプローチは続いていたが成果はあまり・・・いや全然上がっていなかった。今も、実力テストの為の勉強を一緒にしようと誘いに来たのだが、航の返事は冷ややかな一瞥だった。
 しかし、今日の翔吾はスッポンのようなしぶとさで食い下がっていた。
「返事がないということは、OKと取ってもいいんだな? 図書館にでも行こうぜ」
「断る。一人で行け」
「そんな冷たいこと言うなよ。どうせお前だって勉強するんだろ? なら、一人でするより二人でする方がイイじゃん」
 翔吾の提案に、航はフンと鼻を鳴らした。
「お前バカ? それなら委員長の佐々木と一緒にする方がよっぽどいいじゃん。お利口でいらっしゃるんだし、何より親友なんだから丁寧に見てくれるんじゃないの?」
「俺はお前を誘ってるんだよ。慎司とやりたいならそうしてるさ」
「だから、断ると言ったろう?」
 航は翔吾に背を向けて帰ろうとした。
「そんなに嫌わなくてもいいじゃんか!」
 翔吾の叫びに、航は振り返りもせず立ち止まると静かに言った。
「嫌ってなんかいない・・・・・」
「なら!」
 翔吾の顔が希望に輝く。
「でも、好きでもない。悪いけどお前のこと、なんとも思ってないんだ」
 鉄骨がいきなり頭を直撃したような激しいショックを、翔吾は受けたような気がした。今まで生きてきて(たかだか10数年のことだけど)ここまであからさまに存在を無視されたことは、初めてだったからだ。どうせなら嫌われた方が、まだ意識されているという点で、救われているような気がした。
 それほどショックは大きかったのだ。
『しばらく立ち直れそうにないかも。実力テストが近いってのに・・・』
 翔吾は泣きたくなってきた。堕として弄んでやろうとする人間に無視されて、どうしてそこまで胸が痛むのか、その時の翔吾にはまだ何もわかっていなかった。


チャイムが鳴ってシャープペンを放り出すと、翔吾は大きく伸びをした。
「あぁー、終わった。終わった」
「どうだった? 翔吾」
 成績は翔吾とチョボチョボの徹が訊いてくる。ちなみに、慎司は毎回トップだ。
『徹と慎司は赤ん坊の頃からの付き合いらしいけど、何であんなに賢いヤツが俺とまでツルんでくれるのか、ホント謎だよな・・・』
「あー? ダメダメ。分かってんだろ? お前と俺とはノーミソのデキが似てるンだからよ」
 今回に関しては、更に試験前に受けたダメージが大きかった。航に言われた『何とも思っていない』という言葉が、見えない棘となって胸に突き刺さっていたのだが、徹はそんな翔吾の事情は知らないので、あっけらかんとしている。
「そうだよな。アハハハハハ・・・・って、虚しいぞ・・俺は・・・」
「俺も虚しいよ・・・」
 げんなりと呟くと、何時の間に来ていたのか、慎司が背後に立っていた。
「済んだことをいつまでもグズグズ言ってても仕方ないだろ? で、これからどうする? パーっと遊びに行くか?」
「いや・・・俺はヤメとく。早いことアイツを堕として、イチローグッズをゲットしなきゃなんねーからな」
「そうか。まぁせいぜい頑張るんだな」
「えっ? あ・・・んじゃ、また明日な。翔吾」
 慎司と徹が連れだって帰っていく。慎司が何かを耳元で囁くと、徹は真赤になって慎司の背中をどやしつけていた。
『なんだ・・・アイツら仲いいじゃん・・・』
 翔吾は何だか取り残されたような気分で二人の背中を見送った。
 しかし、スグに気を取りなおして航に近づいた。
「羽田。一緒に帰ろうぜ」
「・・・」
 ニッコリ笑って声を掛けたのに、航は一瞥しただけで、翔吾の脇を通り抜けようとする。いつものこととはいえ、やっぱりムカッときた。