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「まじなのかよっ!?」
 肩を掴んで揺すられて、真矢は驚いた。
「お・・・岡崎っ!? 一体 どうしちゃったんだよ?」
「いつの間にこんなことになってたんだよっ!? 相手はダレだ?」
 いつも朗らかな岡崎が、真剣な顔で真矢に詰め寄っている。
「ま・・・待ってよ・・・どうしてそんなこと・・・」
「チクショー・・・俺が今までどれだけ我慢したと思ってんだ・・・」
「岡崎・・一体何を・・・?」
 ブツブツ独り言を言う岡崎に、真矢は困惑していた。
「センパイ! こんなとこで何やってんですかー?」
 振り返ると、佳尉がクラスメート数人と一緒にいた。
「か・・湯島くん・・・」
「これはこれは、我が校のアイドル湯島佳尉クンじゃないか。藤枝と知り合いだったとは知らなかったな」
 岡崎は明らかに佳尉を敵視していたが、佳尉はそれをあっさりとかわした。
「学生イラストレーターの藤枝センパイは、今や我が校の有名人ですからね。知らない方がおかしいんじゃないですかー?」
 心なしか、二人の間に火花が散って見える。
「有名だなんて・・・そんなことない・・・」
 視線を足元に落とした真矢は、そのまま膝から廊下に崩れ落ちてしまった。
「藤枝っ!?」
「センパイっ!」
 岡崎に抱き上げられた真矢は、顔色を失ってぐったりしていた。
「申し訳ないけど、今朝から調子が悪そうだったコイツを保健室に連れて行くので失礼するよ」
 顔面蒼白になった佳尉をその場に置き去りにして、岡崎は保健室に急いだ。
 真矢をこんな目に合わせた犯人を佳尉だと確信していた。

「佳尉? どうしちゃったの? 顔色悪いよ」
 一緒にいたクラスメートの一人が、佳尉の目の前でヒラヒラと手を振った。
「そんなことより、チャイムが鳴るぜ。早く行かなきゃヤバイんじゃない?」
 移動教室の途中だったことを思い出した誰かの言葉に、みんな慌てて走り出した。
 佳尉は真矢が運ばれて行くのを、しばらくジッと見つめていた。


 保健室で1時間ばかりぐっすり眠った真矢は、3時間目から授業に復帰していた。
 飲んだ鎮痛解熱剤が効いたのか、身体は大分楽になっていた。
「ホラ、これ・・・ 飲んどけよ・・・」
 3時間目が終わった休憩時間。岡崎が机の上にドリンク剤を置いた。
「どうしたの? これ・・・」
「今、裏のコンビニで買ってきた」
 そう言われてみれば、岡崎の息が弾んでいる。裏門脇にあるコンビニまで走って買ってきてくれたんだろう。
「あ・・・ありがと・・・いくらだった?」
 真矢がポケットから財布を取り出すと、岡崎はその手を上から押さえた。
「そんなのいいから、さっさと飲んで元気になってくれ」
「あ・・・うん・・ありがとう・・・」
「弁当・・・一緒に食おうぜ。ちょっと・・・話があるんだ・・・」
「うん・・・いいよ・・・」
 真矢は頷くと、岡崎の心づくしのドリンク剤を飲んだ。