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 天気がいいので、真矢と岡崎は弁当を持って中庭に出てきた。
 弁当を食べ終わると、真矢は学食まで行って自販機のコーヒーを2つ買ってきた。
「話って何?」
 ひとつを岡崎に差し出して訊くと、岡崎は思いつめたように眉をひそめた。
「あのさ・・・ お前の恋人ってさ・・・ 1年の湯島佳尉なのか?」
「なっ・・・!?」
 真矢はコーヒーのカップを落としてしまった。
「あっ、バカヤロー。火傷しなかったか?」
 顔面蒼白で硬直している真矢に代わって、岡崎はハンカチを取り出して零れたコーヒーを拭いた。
「ど・・・どうして・・・?」
 ズボンが少し濡れただけで、火傷がなかったことを確認すると、岡崎は真矢に向き直った。
「さっきの湯島の態度で・・・・ もしかしなくても身体の関係もあるんだよな?」
 泣き出しそうに歪んだ真矢の表情で、岡崎は自分の想像が正しかったことを悟った。
「どうしてって聞いてもいいか?」
「えっ・・・?」
「お前、遊ばれてるんじゃないか?」
 岡崎の言葉は真矢の胸をえぐった。
「・・・・んだ・・」
「え? なんだって?」
「いいんだ・・・僕は・・・・たとえ遊ばれてるんだとしても・・・・」
 真矢の答えは岡崎をギョッとさせた。
「お前・・・何言ってんだよ?」
「佳尉は悪くないんだ・・・僕が・・・僕が佳尉を好きになった・・佳尉は優しいから僕を・・・僕を、そばにいさせてくれてるんだ・・・・」
「まじかよ・・・・?」
 岡崎は信じられない言葉に天を仰いだ。
「内緒にして欲しい・・・・僕は何と言われようと構わない・・・でも・・・佳尉だけは悪く言われたくない・・・・ホモだなんて、そんなこと佳尉が言われるの、僕は・・・ お願いだよ・・・・」
 真矢の真剣な表情に、岡崎は観念した。
「わかったよ・・・・ダレにも言わない・・・そこまで好きなんだったら、俺がつけ込む隙がないじゃん・・・・」
 岡崎がため息と共に吐き出した言葉に、真矢は安堵の笑みを浮かべた。
「ありがとう・・・・岡崎。恩に着るよ」
「何でも相談に乗ってやるから・・・・ 俺はお前の親友として、このままいてもいいだろう?」
「も・・・もちろんだよ! 岡崎の気持ちには応えられなくて悪いとは思うけど、僕は・・・岡崎を大事な友達だと思ってるから・・・」
 真矢は身を乗り出して言った。岡崎は口唇の端だけを持ち上げて、苦笑した。
「焦らないさ・・・俺は・・・」
 岡崎がつぶやいた言葉は、真矢の耳には聞こえなかった。


「月曜日の、あの男は誰?」
「えっ? 何?」
 佳尉の目は冷ややかに細められていた。
 いつもは土曜日に泊まりに来るのだが、今週は金曜日の晩に佳尉に拉致されてしまった。
「センパイを抱いて保健室に連れてった男。学校ではあんまり馴れ馴れしくしないってことだったけど、俺達のこと、アイツにはバレちゃったんじゃない?」
 佳尉の言葉に、真矢は顔色を失った。