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 佳尉の家族は、両親と年の離れた兄と姉がひとりずついる。父親はラブホテルを、母親は割烹料亭を、兄はホストクラブを、姉はカフェバーを、それぞれ経営していた。
「俺が高校に入ったから、両親も自分の店の近くにマンション買ったんだ。もう一人で生きていけって、冷たいっしょ?」
 佳尉の口調は明るくて、両親を非難するつもりじゃないようだった。
「だからさ。センパイが大学に入ったら、ここで一緒に暮らさねぇ?」
「えっ・・・・?」
「幸い、部屋数だけは多いから、センパイの仕事部屋も確保できるぜ」
 佳尉の信じられないような申し出に、真矢はこれが夢ではないかと自分の耳を疑った。
「俺と暮らすのイヤ? それとも地方の大学を志望してるとか、言う?」
 真矢は慌ててかぶりを振った。
「い・・・いいの? 僕が・・・僕なんかで・・・」
 真矢は自分の声が震えているのがわかった。佳尉にもわかったはずだ。
「なんで? 俺が誘ってるんだけど?」
 佳尉は真矢を抱き寄せると、震える口唇をふさいだ。
「イヤじゃないだろ?」
 口唇が触れ合ったまま囁かれて、真矢は目を閉じたまま頷いた。


 翌年の春、真矢は第1志望の大学に合格した。そして約束通り、佳尉のマンションで2人で暮らすことになった。
 真矢の両親は最初難色を示したものの、月に一度は実家に戻るということで納得した。というより、佳尉の演技に丸め込まれたというのが正しいのかもしれない。
「家事はできる方がするってことでどう? 無理ならプロに頼んだっていいしさ」
 佳尉の提案に真矢が頷くと、そのまま口唇を寄せてきた。
「これからよろしく・・・」
 こちらこそ、と言おうとした口唇を塞がれて、真矢は与えられる愉悦に酔った。
「このまま抱きたいけど、初夜ってのは、やっぱ夜の方がいいよな・・・」
 口唇が銀の糸を引いて離れると、佳尉がボソッとつぶやいた。
「まずは、荷物を片付けちゃおうか?」
 真矢には異存はなかった。


 2人で暮らすに当たって、真矢は一通りの家事を身につけてきた。料理は本を見ればなんとかなるだろうと、できる限り母親の側にいて手順などを頭に叩き込んだ。その成果が遺憾なく発揮された夕食を終えると、佳尉は一緒に風呂に入ろうと誘ってきた。
「い・・一緒に・・・?」
 真矢が躊躇していると、佳尉はイジワルそうな笑みを口唇の端に浮かべた。
「ただ風呂に入るだけなんだけど?」
 真矢は自分が考えていたことが佳尉に気付かれたのではと、頬に朱をのぼらせた。
「風呂場でシタかった?」
 耳朶を噛まれながら囁かれて、真矢は腰砕けの状態になった。佳尉は真矢の腰を支えながら風呂場に引き摺って行った。
「初夜はちゃんとペッドで優しくしたいから・・・」
 意外にも真顔で言われて、真矢ははにかみながら頷いた。