「今更なんだけどさ・・・・」
ベッドに真矢を横たえると、佳尉はポツンとつぶやいた。
「アンナことやコンナこともしたけどさ。なんかケジメっての? ちゃんとしたかったんだ」
真矢が何も言えずにただ見つめていると、佳尉の顔が降りてきた。柔らかく口唇を塞がれると、真矢は佳尉の背中に腕をまわした。
くちづけはすぐに熱いものになった。飲みこみきれなくなった蜜が首筋を伝う頃には、真矢の身体中の力が抜けていた。
「センパイ・・・可愛い・・・・」
自分しか知らない真矢に佳尉は満足していた。キスだけで目を潤ませて、熱い吐息を漏らすのも、自分がそうさせているのだと思うと、身体が熱くなった。
「俺の名前呼んで・・」
佳尉の囁きに、真矢は広い胸にしがみついたまま応えた。
「佳尉・・・か・・い・・・」
「今夜はどうされたい? センパイ・・・・」
見上げた佳尉の目はいたずらっこのように輝いていて、真矢は思わず見とれてしまった。
「佳尉の・・・佳尉の好きにして・・・」
そう答えるのが精一杯の真矢に、佳尉は破顔した。
「いいの? そんなこと言って・・・ 俺にナニされるかわかんないよ?」
「いい・・・よ・・・ 佳尉が・・・ したいことをして・・・・」
真矢が目を伏せるのを待っていたかのように、佳尉は首筋に口唇を寄せた。
「今夜は優しくするって言ったろ?」
そして、佳尉は真矢の感じるポイントを的確に愛撫していった。
真矢はサークルには入らずに講義が終わるとまっすぐ戻ってきて、仕事と家事に専念した。佳尉は2年になって、新入生の熱いラブコールが殺到しているらしい。
「俺が誰とも付き合わないって噂があっても、おかまいなしなんだよなー。一度だけでいいからデートしてくださいとかさ・・・」
山ほどのラブレターを前に佳尉が嘆息した。
「イヤじゃないなら、してあげたら?」
真矢が言うと、佳尉は目を丸くした。
「センパイはそれでイイの? 俺が他の誰かとデートしてもどうでもイイんだ?」
「違う・・・ 僕は・・・彼女達の気持ちがわかるから・・・」
「センパイ?」
「僕は・・・遠くから眺めているだけでよかった・・・・佳尉と話ができなくても・・・今こうして一緒にいられることも・・・まだ信じられない気持ちなんだ・・・ だから、佳尉と一度だけでもって気持ち・・・わかるから・・・」
真矢が言うことを黙って聞いていた佳尉は段々不機嫌になっていった。
「じゃあ、一度だけのつもりで会って、俺がそのコに本気になったらセンパイはどうする?」
真矢は真っ直ぐ佳尉の目を見て答えた。
「そうなれば僕は身を引く。僕の望みは佳尉の幸せだけだから」
「ソレ、本気?」
「本気だよ」
いつも自信なさそうな真矢のキッパリとした答えに、佳尉は驚いた。
「わかった・・・」
真矢に焼き餅を焼かせてみたくて、ラブレターを見せたりしたのだが、佳尉は自分からこの話を打ち切った。
それからというもの、佳尉は真矢に当てつけるように女のコとのデートを重ねた。真矢は何も言わず、毎日遅く帰ってくる佳尉を咎めもしなかった。