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「ごめんなさい。藤枝センセーがあんまり可愛らしいから、間違えてしまったわ。許してね」
「別に・・・」
 ぷいっと横を向いてしまった佳尉に、気分を害することもなく、沙菜は隣の女性を紹介した。
「彼女は私のアシスタントで生涯の伴侶の佐藤真理恵(さとうまりえ)です。よろしく」
「え・・・?」
「っ!?」
 真矢も佳尉も、一瞬何を言われたのかわからなかった。
「あら、貴方たちもそうなんでしょ? 違ったの?」
「さ・・・さ・・・真田先生・・・」
 真矢は、どう返事していいのか、混乱していた。
「まぁ、いいけど。取り敢えず、これはお近づきのしるしね」
 綺麗に包装された箱を差し出されて、佳尉は鳩が豆鉄砲を食らったような顔のまま、無言でそれを受け取った。
「それじゃ、これからよろしくお願いしますね。藤枝センセ。忙しい時は手伝ってくれると嬉しいかも」
 真矢にウインクを送ると、沙菜は真理恵と連れ立って戻って行った。


「いいのかよ? あのセンセー。俺達にこんなことバラしちゃってさ」
 佳尉は、まだ信じられないといった表情をしていた。
「真田先生くらいビッグになると、こういうことくらいじゃ、ダメージにならないと思う・・・」
「俺達のこともなんか言ってたよな・・・・」
 佳尉の言葉に真矢はハッと顔を上げた。
「佳尉・・・・あの・・・」
 自分はいいけど、佳尉がホモだという噂が立ったりしたら・・・ そう思うと真矢の顔から血の気が引いた。


 次の日、講義が終わると自分の部屋に戻る前に、沙菜を訪ねた。
「あの・・・・どうしても聞いてもらいたいことがあって・・・・・」
 切羽詰ったような真矢の様子に、沙菜は驚きながらも迎え入れてくれた。
「訪ねてくれたのが今日でよかったわ。昨日なら、部屋がまだ片付いてなかったし、明日からは温泉に出かけてたから」
 真理恵が淹れてくれた紅茶を前に、真矢はどう話を切り出そうか迷っていた。
「で、ご用件は?」
 笑顔を向けられて、真矢は覚悟を決めた。
「あの・・・・僕と佳尉とのことなんですけど・・・」
「恋人どうしなんでしょ?」
 沙菜の言葉に、真矢は泣きそうな顔で否定した。
「違うんです・・・・僕を哀れに思って・・・佳尉は優しいから・・・」
 真矢の答えに、沙菜と真理恵はピックリしたように目を瞠った。
「ちょ・・・ちょっと待ってよ。詳しく話を聞かせて?」
 真矢は沙菜の質問に答えるような形で今までのいきさつを話した。


「じゃあ、佳尉クンはまあやのことを好きだって言ったことはないのね?」
 全てを話し終わる頃には、呼び方が「藤枝センセー」から「まあや」に変わっていた。
 真矢がコクンと頷くと、沙菜と真理恵は顔を見合わせた。
「佳尉は優しいから・・・・僕が佳尉のことを想うことも・・・・そばにいることも・・・黙って許してくれてるんです・・・」
 沙菜は、どう言ったらいいのか、途方に暮れそうになった。
「お願いです。僕のことはどう言われてもいいです。でも、佳尉のことは・・・佳尉のことがホモだとか、そういう風に思わないで欲しいんです」
 深々と頭を下げられて、沙菜は慌てた。
「まあやの言いたいことは、よくわかったわ」
 顔を上げた真矢に、沙菜と真理恵は優しく微笑んだ。