「この時計はひとみさんから。で、このシャツはれいかさんから。この指輪はまいさんからだったかな・・・・」
仕事をしながらいつも起きて待っている真矢は、佳尉の言うとおりにメモしていく。洋服だけで既にクローゼットが一杯になっている。アクセサリーなどは店を開けるほど集まった。
仕事専用にしている携帯に、客からメールが入ると、その人から貰った物をなにかしら身につけて行くようにしてるので、真矢がちゃんと整理していてくれることはありがたいと思っていた。
「明日はりかさんが来るって、さっきメール入った」
佳尉が言うと、真矢はクローゼットから黒のシルクのシャツを出してきた。
「りかさんからは、これとオーデコロンを貰ってるけど・・・・」
「じゃあ、シャツを着ていくことにする。コロンとか好きじゃないから」
佳尉はそう言うと、真矢の手を引いて浴室に向かった。
「センパイに洗ってもらいたいな。もう風呂には入った?」
手を引かれたまま顔を覗き込まれて、頷く真矢の頬は朱に染まった。
「シャワーだけ浴びた・・・」
「ホントにカワイイよね、センパイ。もう一緒に暮らして2年になるのに、いまだにこんな反応するんだから」
繋いでない方の手を頬に滑らされて、真矢はますます血をのぼらせた。
「ココは特にキレイに洗って・・・ 今夜は女に突っ込んできたから・・・」
真矢の顔色が変わったのを見て、佳尉はほくそ笑んだ。
「気になる? センパイ・・・」
真矢はフルフルと首を振った。
「女性を相手にするのは・・・・仕事だって言ってたから・・・」
俯いて佳尉の身体をスポンジで擦っている真矢の手が、少し震えているのに気付いて、少しイジワルを言ってみたくなった。
「じゃあ、仕事じゃなくオトコを相手にしたらどうする?」
驚いたように顔を上げた真矢は大きく目を見開いていたが、何も言わずに再び俯いて佳尉を洗うことに専念した。
シャワーで泡を洗い流されると、佳尉は浴槽にはつからずに真矢を引き摺るようにベッドに向かった。
真矢をベッドに突き倒すと、驚いたように目を瞠っていた。佳尉はそのままのしかかって、両手を押さえつけて拘束した。
「センパイは俺のこと、どう思ってる?」
「す・・・・好き・・・だよ・・」
自分は真矢をどう思っているのか口にしたことはないのに、いつも真矢の答えを聞きたがる。
「俺が他のオトコを相手にしたらセンパイはどうする?」
真矢はどうして佳尉が苛立っているのかわからずに、どう答えたらいいのか困惑していた。
「佳尉・・・・好きな人が・・・いるの?」
反対に質問された佳尉は、それ以上何も言わせないとでもいうように、真矢の口唇を激しいキスで塞いだ。
いつもより激しく抱いたせいか、意識を失ってしまった真矢の顔を見つめながら、佳尉はあれこれ考えていた。
女相手だと仕事だと思われるなら、オトコの存在を匂わせたなら、少しは嫉妬してくれるかもしれないと。
誰か頼めば協力してくれそうな奴がいるはずと、次の日、講義の合間に友人に話を持ちかけてみた。
「ココだけの話さ、俺の恋人を嫉妬させたい訳よ。ジャニ系で協力してくれる奴いねぇかな?」
佳尉の話を興味津々に聞いていた友人達は、一様に驚きの悲鳴を上げた。
「どうりで、コンパに出てもお持ち帰りがなかったんだ」
「ってか、まぢ、オトコと一緒に暮らしてる訳?」
「いやーん。俺らをそんな目で見てたのぉ? 湯島クンったら」
誰かがオネエ言葉でふざける。
「心配しなくても、いくらオトコと暮らしてるからって、お前らを襲ったりはしないからな。コッチにだって選ぶ権利はあるんだ」
佳尉の言葉は考えようによっては、随分なものだったが、悪友の一人、桜井はおもしろそうにニヤッと笑った。