「まぁ待てよ、お前ら。考えても見ろよ。湯島がコンパに来るってだけで、ハイクラスな女のコがわんさと参加してくれるわ、本人はお持ち帰りはしないわってなら、俺らの方がお得じゃねぇ? ダレか協力してくれそうな知り合いいないのかよ?」
桜井の言葉にハタと考えたみんなは、思考をめぐらせた。
「あ・・・ 一人いるかも。国文の松本ってんだけど、かなりカワイイ系だぜ」
誰かの言葉に全員が思い出したように頷いた。
早速その日の帰りには、誰かが話しをつけてくれたらしく、カフェテリアで松本洋人(まつもとひろと)と会った。
「ヘンなこと頼んじまって、ゴメンな」
簡単な自己紹介の後、謝罪する佳尉に、洋人は苦笑した。
「彼女もおもしろがってるからイイけど・・・・」
「あ・・・彼女いるんだ?」
サラサラの髪が肩の辺りまで伸ばされていて、化粧をしていないのにピンクの口唇をしている洋人は、大きなアーモンドアイズがチャームポイントの女のコと間違えられることもあるだろうと思われた。
「まあね。こんなナリだから恋人はオトコって方がしっくりする? でも俺は根っからの女好きだし、俺の彼女は若いツバメ好きってことで、結構上手くいってるんだぜ」
どうも洋人は見た目を裏切るオトコらしい性格をしているようだ。
「あ・・・彼女って年上なんだ?」
「うん。って言っても25だから5つ上。俺、一浪してるからハタチだし、十分許容範囲だろ? キミのカレシも年上って聞いたけど?」
「今年21・・ 高校のセンパイだったんだ」
「ふーん。で、一緒に暮らしてるって聞いたけど、上手くいってないの?」
協力してもらうからには、一通り知っておいてもらったほうがいいと、佳尉は今までのことを簡単に話した。
「大体わかったけど、俺はこんな姑息な手段使わない方がイイと思うんだけど」
洋人はそう言ったけど、佳尉はどうしても頑なな真矢をどうにかしたいと思っていたので、協力してくれるように懇願した。
「ダメなんだ。俺が言うことにはなんでも素直に従うんだよ。センパイは・・・・ でも、そんなんじゃイヤなんだ」
佳尉の言葉に、洋人は肩を竦めるだけだった。
「どうしてイヤなのかな? それって俺に言わせれば贅沢な悩みだと思うけど。カレシは君の思い通りに振る舞ってくれるんだろ?」
「俺に言われて、じゃなく、自分の心をさらけ出して欲しいんだ・・・」
「まぁどうでもイイや。で、俺はどうしたらいい訳?」
幸いなことに、今日の真矢はビッシリ講義が詰まっていて、佳尉より帰りが遅いのはわかっていたから、洋人をマンションに連れて行った。
「取り敢えず、センパイが戻ってくるまで寛いでてよ」
コーヒーを薦めながら、佳尉は洋人の隣に座った。
「センパイが戻ってきたらイチャイチャするフリをしてくれたらイイから・・・・」
佳尉の言葉に、洋人はちょっと眉をしかめた。
「そんなことして、愛想尽かされたらどうするの?」
「大丈夫。センパイは俺にベタ惚れだから・・・」
確固たる確信がある訳じゃないから、洋人にこんなことを頼んでるクセに、佳尉は強気だった。
「センパイから俺に別れを言い出す訳ないんだ・・・」
1時間ばかり世間話してたら、真矢が戻ってきた。
「じゃあ、頼むな」
佳尉はそう言うと、隣に座っている洋人の肩を抱き寄せると、首筋に口唇を寄せた。
「ただいま・・・・」
リビングのドアを開けた真矢は、ソファで繰り広げられている光景に、持っていたスーパーの袋を落としてしまった。
「おかえりセンパイ。意外と早かったんだね・・」
悪びれる風もない佳尉に、真矢はどうリアクションしていいものか、困惑した。
「え・・と・・・ゴメンね・・・あの・・これを冷蔵庫にしまったら、出て行くから・・・」
落したスーパーの袋を拾い上げて、キッチンへ逃げようとする真矢を、佳尉は呼び留めた。
「センパイ。俺達もう出かけるからいいよ。今夜はコイツと一緒にメシ食うから・・・・ 帰りも遅くなるから、先に寝てていいから・・・」
振り返った真矢は、洋人の方をチラッと見て目を瞠った。
「うん・・・ わかった・・・」
そう返事すると、真矢は目を伏せてキッチンへ逃げこんだ。