「だから言わんこっちゃない・・・・」
翌日、全てを話した佳尉に、洋人は呆れたように言った。
「俺、どうしたらイイと思う?」
「そりゃ、見つけ出して土下座して許しを請うしかないっしょ」
「でも、センパイがドコにいるのか、見当がつかないんだ。実家にも戻ってないし・・・・」
「カレシのこと『センパイ』って呼んでんだ?」
「え・・・・?」
「ま、それぞれだから、イイけど・・・・」
「あ・・・あの・・・?」
「俺、講義があるからもう行くわ。できたら早いトコ元鞘に戻って、色紙貰ってくれると嬉しいけど・・・」
洋人はヒラヒラと手を振ると、呆然とする佳尉を置き去りにして行ってしまった。
「センパイ・・・・まさ・・や・・・・」
真矢の名前を口に出して初めて、自分が恋人としてどれだけ傲慢だったのかを悟った。真矢が自分にベタ惚れだと信じて疑ってなかったから、最近では性処理込みのハウスキーパーのような扱いしかしてなかったことに、思い至った。
「愛想尽かされて当然か・・・」
佳尉は講義を受ける気になれずに、家に戻った。
「佳尉が講義受けずに戻ってきたわ」
ゴミ出しに行ってた真理恵が戻ってくるなり、報告した。
「何か言ってた?」
「ううん。挨拶しただけ。でも、かなりダメージ受けてるみたい。どす黒いオーラを纏ってたわ」
2人の魔女は嬉々として、次の作戦を練り出した。
「佳尉も戻ってきたし、今からでもガッコ行く? 車で送ってあげるから」
学校で佳尉に見つかったらダメだからと、2人に自主休講するように厳命されていた真矢は、講義を受けたくてうずうずしていたので、渡りに船とばかりに甘えることにした。
「その代わりに、戻ってきたら食事の用意お願いね」
締め切り間近な2人の代わりに、家事を引き受けることになった。
「あぁっ!? 休むだと? 寝ぼけたこと言ってんじゃねぇっ! 這ってでも出て来いよ、佳尉!」
バイトに行く気にもなれずに、休むと電話した佳尉に、オーナーで兄の誠吾(せいご)は容赦なかった。逆らったら誰よりも怖い兄だから、佳尉は渋々出かける支度を始めた。
「今夜来るって言ってたのはダレだったっけ?」
携帯のメモを確認して、彼女に貰ったシャツを着て行こうとしたけど、真矢がいないとドレがダレから貰ったものかもわからずに、佳尉は途方に暮れた。
「セ・・・真矢・・・」
真矢の置手紙は、ずっとテーブルに置かれたままだった。真矢が残したものがそれだけだったので、捨ててしまうと真矢との縁が切れてしまいそうな気がして、捨てられずにいたのだった。
「藤枝センセー?」
講義が終わって沙菜に電話を入れてると、声をかけられた。大学では自分が「藤枝まあや」だとは公表していないのに、どうしてだろうと戸惑っていると、相手は「先日、湯島んちでお目にかかりました」と言ったので、佳尉の新しい恋人なのだとわかった。
「あの・・・?」
困ったような表情になってしまった真矢に、洋人は少々後ろめたさを感じた。
「国文1年の松本です。レインボーシリーズのセンセーのイラストのファンだったから、センセーと湯島が知り合いだと聞いて、ラッキーと思いましたよ。サインいただけますか?」
「え・・と・・・・どこにすれば・・・?」
素直に応じる真矢に、洋人はある意味感動していた。自分のオトコを寝取った相手に、どうして優しくできるのだろうと。ファンを大切にするというポーズなどでないことは、すぐにわかった。真矢がそんな器用に立ち回れないだろうことは。