「コクっちゃえばイイじゃん。今のセンパイならコクられて断る女なんていねーって」
「そんなこと・・・できない・・・」
俯いた真矢の声は小さくかすれていた。
「恋人がいる女なの? なんなら俺が話つけてやろうか?」
思い人の優しい残酷な言葉に、弾かれたように顔を上げた真矢の目から、涙が溢れ出した。
「えっ・・・ウソ・・なんで?」
まさか泣き出されると思ってもみなかった佳尉は、声も出さずに泣く真矢にびっくりした。
「ゴメン・・・俺、なんかヤなこと言った?」
そして、女のコを慰めるときと同じように、真矢をそっと抱き締めた。
「!」
抱き締められて身体を強張らせた真矢に、佳尉は頭の中に浮かんだ疑問を口にした。
「ねぇ・・・間違ってたらゴメン・・・・もしかしてセンパイの好きな人って、俺?」
「ゴメン・・・ゴメン・・・ごめんなさい・・・許して・・・ヤだ・・離して・・・・」
半狂乱で謝罪の言葉を連呼して、身体を離そうと暴れ出した真矢に、佳尉は自分の言葉が正しかったことを確信した。
「センパイ・・・・泣かないで・・ね? 大丈夫だから・・・」
抱き締められてパニックになって、子どものように泣きじゃくる真矢の背中を撫でながら、佳尉は落ちつかせようと囁き続けた。
「大丈夫だから・・」
ようやく落ちつきを取り戻した真矢が泣き止むと、佳尉は信じられない言葉を言った。
「センパイ、カワイーからイイよ。つきあおうよ。俺、OKだからさ」
「え・・・?」
佳尉の言葉の意味が飲みこめなくて、キョトンと聞き返した真矢の頬を両手で挟むと、佳尉はもう一度繰り返した。
「つきあおうって言ったんだよ」
「信じ・・・られな・・い・・・・」
「どうして? じゃあ、こうすれば信じてもらえる?」
佳尉の顔が近づいてくるのを、真矢はぼんやりと見つめていた。
「センパイ・・・キスするときは目を閉じて・・・ね?」
「え・・・・今のって・・・?」
ぼやけるほど近づいてきた佳尉の顔が離れて行くのを、まばたきしながら見ていた真矢は、佳尉が苦笑したように言った言葉を理解しようと努力した。
「キス・・・初めてだった?」
瞬間、真矢は身体中の血液が沸騰したかのように、真っ赤になった。
「あ・・・あ・・・」
両手で口を押さえて、再びパニックにおちいった真矢を抱き締めたまま、佳尉は嬉しそうに囁いた。
「ファーストキスだったんだ? 嬉しいな・・・ じゃあ、もう一つの『初めて』ももらっちゃおうかな・・・・」
「な・・・何? 何を?」
完璧に混乱している真矢の耳に吐息を吹きかけて愛撫するように、佳尉は低く囁いた。
「セックス・・・しようか?」
思考回路がフリーズしたまま、真矢は佳尉に引き摺られるように、ただ機械的に歩いていた。
途中、佳尉は誰かと携帯で話をしていたようだが、真矢の耳は聞くことも拒否していた。
駅から電車に乗せられて、5つ目の駅で降りて5分ほど歩いた瀟洒なマンションに連れこまれた。
「センパイ・・・覚悟はイイ?」
セックスという単語を出した途端、目を見開いて表情が固まってしまったままの真矢に見上げられて、佳尉は苦笑した。
「ホントに抱くよ」
佳尉はエレベーターのボタンを押して、開いたドアから真矢の肩を抱いて乗りこんだ。
「まじ、スレてなくてカワイーのな」
ドアが閉まってエレベーターが上昇を始めると、佳尉は真矢を抱き寄せ口唇を重ねた。
「ん・・」
さっき食堂でしたのとは違う、吐息ごと奪うかのような激しいくちづけに、真矢の膝から力が抜けた。
「おっと・・・キスだけでこんなになっちゃった?」
逞しい腕にすくい上げられて、辛うじて崩れ落ちずに済んだ真矢の目にはうっすらと涙が浮かんでた。
「ホント、カワイーな・・・あの程度のキスでこんなに目を潤ませて・・・・」
佳尉は獲物を捕らえた猛獣のように、獰猛な笑みを見せた。