夏休みに入って、真矢は精力的に仕事に励んでいた。
レインボーシリーズをマンガ化するという企画が持ち上がったので、気を紛らせられるならと、引き受けたのだった。年末にはイラスト集も出そうということになっているし、マンガが好評ならテレビアニメ化もありうるということもチラッと聞いている。
「今度は私達がまあやのヘルプしなきゃならないかもね」
「なんか鬼気迫る勢いで仕事してるよね」
「まるで佳尉のことを頭の中から振り切ろうとしてるみたい・・・・」
「だね・・・・」
「そろそろ佳尉を突ついてみる? あれから2ヶ月になるし、完璧薬も効いてるだろうから」
「そうね・・・まあやも可哀想だもんね・・・」
2人の魔女はお気に入りのカップでティータイムとしゃれこみながら、計画を練った。
「佳尉・・・てめぇやる気があるのか?」
夏休みに入って、佳尉は毎日バイトに入っていた。しかし、つい真矢のことを考えてボーとしては、失態を繰り返していたのだった。
「ごめん・・・兄さん・・・」
ここ2ヶ月、注意力散漫な弟を見兼ねて、休憩時間に事務所に引き摺りこんだ誠吾は、佳尉の状態が思ったより悪いのに気付いた。
「身体の調子が悪いんじゃないな・・・・ 悩み事か?」
ズバリ言い当てられて、佳尉は力なく頷いた。
「何があった? トラブルにでも巻き込まれたか?」
仕事絡みかと訊かれて、佳尉は首を振った。
「恋人に・・・愛想尽かされた・・・俺がバカなマネして気持ちを確かめたりしたから・・・・」
素直に打ち明けると、誠吾は驚いたように目を瞠った。
「お前らしくもない・・・ 本命か?」
コクンと頷く佳尉に、誠吾は我が目を疑った。
「そりゃま・・・ご愁傷さまなことで・・・」
「出ていっちまった・・・実家にも帰ってないし、友達のトコにもいないんだ・・・」
佳尉の泣き出しそうな表情は小さい頃の面影を残していて、誠吾は吹き出しそうになりながらも、年の離れた弟の頭を撫でてやった。
「それで、さやかさんに占ってもらってたのか」
「うん・・・糸は切れてないって言われたけど、俺もう・・・」
気弱になっている佳尉を励ますように誠吾は肩を叩いた。
「彼女の力はホンモノだよ。信じて待ってろ。お前がそんな弱気でいると、糸は切れちまうぞ」
「兄さん・・・」
「元サヤに戻ったら紹介しろよ」
誠吾の言葉に、佳尉は笑顔で頷いた。
「見た目は儚げだけど、芯のしっかりした人なんだ」
「ほぅ・・甘えん坊のお前にピッタリじゃないか。で、美人なのか?」
「それは会ったときのお楽しみさ」
調子を取り戻した佳尉は、誠吾にウインクしてみせた。
「佳尉クン。ちょっといいかな?」
昼過ぎに沙菜が訪ねてきたけど、寝起きだった佳尉は30分待ってくれるように頼んだ。
「じゃあ、支度できたら『スワン』に来てくれる?」
マンションの1階に入ってる喫茶店を指定されて、佳尉は承諾した。大急ぎでシャワーを浴びて『スワン』に行くと、沙菜と真理恵が待っていた。