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「ごめんね。呼びつけたりして」
「いえ・・・別に・・・で、用件ってなんです?」
「まあやのことだけど・・・・」
 沙菜が切り出すと、佳尉の表情が強張った。
「センパイなら出ていったから・・・」
 そう言い捨てると、佳尉は口唇を噛み締めた。
「別れたの?」
 真理恵に突っ込まれて、佳尉は言葉を失った。
「まあやのことキライになった? 恋人ができたそうね?」
 沙菜の言葉に佳尉は目を瞠った。
「ど・・どうしてそれを?」
「まあやのこと、どう思って一緒に暮らしてた?」
 佳尉の問いに答えることなく、沙菜は続けた。
「まあやはアナタがお情けで傍においてくれてるんだって言ってたわ」
「な・・!?」
 真矢がそんな風に思ってたと知らされて、佳尉はショックを受けた。
「好きだって言ったことないんだってね。セックス込みの家政婦程度にしか思ってなかったのかしら?」
「ち・・・違う・・・・」
「どう違うの? まあやが戻ってくるのを見透かしたように恋人を連れ込んでたんじゃなくて?」
「そ・・・それは・・・」
 2人の魔女に容赦なく追い込まれた佳尉は、どうしたらいいのか途方に暮れた。
「も・・・・もしかして、センパイの居場所・・・知ってるんですか?」
 恐る恐る訊いてみた返事は、沙菜の思わせぶりな笑顔だった。
「知ってたとして、まあやをあれほど悲しませた貴方に教えると思う?」
 真理恵は博多人形を思わせる清楚な美人だったが、性格はかなり冷淡のようだ。沙菜が逃げ場を残しておくのに対して、真理恵は完膚なきまでに叩きのめすことを信条にしていた。
「真理恵ったら・・・まあやの気持ちも考えてあげないと。じゃなきゃ仕事のし過ぎで身体壊しちゃうでしょ?」
 沙菜に窘められて、真理恵は肩を竦めた。
「まあやには、もっと相応しい人がいると思うのよ。私は」
 真理恵は佳尉を睨むと、ツンっと顎を反らした。
「ねぇ、佳尉クン。まあやはいつだって貴方のことを一番に考えてきたわ。そうだったよね? でも、貴方はどうだった?」
 沙菜の問いかけに、佳尉は頭をハンマーで殴られたようなショックを受けた。
「俺・・・」
「3日考える時間をあげる。佳尉クンにとってまあやがどういう存在なのか、ゆっくり考えてみて。私達が納得できる答えができたら、まあやの居場所を教えてあげる」
 沙菜の言葉に、佳尉は頷くことしかできなかった。

 自分の部屋に戻った佳尉は、真矢のことを考えてみた。いつも一歩下がったところにいるような気がしてたのは、自分がお情けでそばにいさせてもらってると思ってたからだったなんて・・・・
 道理で甘えてくれなかった訳だ。
 佳尉はそう思うといてもたってもいられなくなって、隣家のチャイムを鳴らしていた。
「3日も待てない・・・・今すぐ会いたいんだ・・・」
 佳尉の言葉に沙菜は頷くと、佳尉を奥の部屋に案内した。
「まあや、入るわよ」
「えっ? センパイはここにいたんですか?」
 驚く佳尉に沙菜はいたずらっこのような笑みを浮かべると、ドアを開けた。