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「センパイっ!」
「か・・・・佳尉・・・」
 原稿にペン入れをしていた真矢は、部屋に入ってきた佳尉を見て思わず立ちあがった。
「逢いたかった・・・・セン・・・真矢・・・・」
 呆然と立ち尽くす真矢を、佳尉はそっと抱き締めた。
「戻ってきて欲しい・・・・真矢・・・愛してるんだ・・・・」
 抱き締められて、名前を呼ばれて、思ってもみなかった言葉を囁かれて、真矢は眩暈を起こしそうになった。
「か・・・佳尉・・・どうして・・・」
 佳尉は困惑している真矢を抱き締める腕に力を込めた。
「俺が悪かったんだ。真矢をためすようなマネをしたりして・・・もう二度としないから、戻ってきてくれないか・・・」
「佳尉・・・・」
「愛してる・・・」
 佳尉は真矢の顎に指をかけて上向かせ、震える口唇をそっと塞いだ。
 久しぶりで熱く貪るようなくちづけは、真理恵の咳ばらいによって解かれた。
「貴方達ね、人んちでいちゃつくのはやめてちょうだい」
 我に返った真矢は真っ赤になって身体を離そうとしたが、佳尉は胸に抱き締めて離さなかった。
「感動の再会を果たしたところ申し訳ないけど、佳尉クンは帰ってくれる?」
「な・・なんでっ!?」
 目をまん丸にしている佳尉に、真理恵は悪魔の微笑みで言った。
「ホントはまあやを帰してあげるのが筋でしょうけど、まあやの仕事は3日後に締め切りが迫ってるの」
「それが何か?」
 真矢を抱き締めたまま、佳尉は真理恵に食って掛かった。
「アンタ、バカ? 今まあやを帰したら仕事なんかできるわけないじゃない」
「だから、何で?」
 佳尉は心底ムカついてきた。早く真矢を連れて帰って愛を確認したかったからだ。
「まあやを連れて帰ってナニをするつもり? まあやに仕事させてあげられる?」
「あっ・・・・」
 佳尉はオモチャを取り上げられた子どものような、情けない顔になった。
「このまま戻るとアンタはまあやをベッドに連れ込んで離さないでしょ? だからまあやは仕事が終わるまで、ココにいなさいって言うの」
 佳尉はうなだれ、真矢を拘束している腕を解いた。
「大丈夫。まあやは締め切り破ったことないから。一日10分、顔を見に来るくらいは許してあげるわ」
 沙菜の言葉に頷くと、佳尉はスゴスゴ引き上げて行った。
「なんか尻尾を丸めた大型犬って感じだったわね」
 ドアが閉まると沙菜と真理恵は、大笑いした。
 真矢は恥ずかしくていたたまれない気持ちで仕事に戻った。

「お世話になりました」
 深々と頭を下げた真矢に、沙菜と真理恵は笑顔で送り出した。
「ケンカしたら、いつでもいらっしゃいね。まあやは私達の弟なんだからね。後、シュラバったときには応援よろしくね」
「あ・・・はい・・・」
 頷いた真矢の腕を佳尉が引っ張った。
「もうイイだろ? どうせ隣同士なんだし、いつだって話ができるんだから」
 急かす佳尉に真理恵の突っ込みが入った。
「ソレを言うなら、アンタは一緒に住んでるんだから、私達よりいつでも話ができるじゃない。少しは遠慮ってものを知りなさい。ホントに無粋なんだから」
 佳尉はぐうの音も出なかった。魔女には逆らわないほうがいいと悟った。
「真理恵ったら、小姑みたいに佳尉クンをいじめると、まあやに嫌われちゃうわよ」
 沙菜に助けられて、佳尉はホッとため息をついた。
「これからは真矢を大事にしますから、お手柔らかにお願いします」
 頭を下げると、2人の魔女はようやく解放してくれた。