16

「ひでぇじゃねーか。人が決死の思いで告ってるのに・・・」
 俺の抗議に、ゲラゲラ笑っていた伊織はピタッと笑いを納めると真顔で言った。
「俺は何も告られてないぞ」
「好きだ」
「それは初耳だな・・・」
 伊織はシニカルな笑みを浮かべると、俺の頬に手を伸ばしてきた。
「それは、どういう意味での好き・・・なんだ?」
 伊織の表情は、まるで俺を誘っているようで、俺は言葉にはせずに再び伊織の口唇を貪った。薄く開かれた隙間から舌を差し込んで絡めとると、苦しげに眉を寄せ、それがまた俺の欲望を煽り立てた。
「亜南・・・・」
 思う存分貪ってから解放してやると、伊織は赤く染まった目じりに涙を滲ませながら睨み上げてきた。口唇も赤く濡れていて、俺と同じモノがついてる男だとわかっていても、湧き上がってくる衝動を押さえきれなくなった。
「抱きたい・・いいか?」
「冗談・・・・」
「本気なんだ・・・伊織・・・」
 断られても、走り出した感情は押さえきれない。伊織の両手を一まとめにして頭上で押さえつけると、首筋に口唇を寄せた。
「あ・・っ・・・」
 上擦った声を上げて、伊織の身体が跳ね上がった。
「へぇ・・こんなとこが感じるんだ?」
「ここで・・・か?」
 シャツのボタンに手をかけた俺を睨みつけて、伊織が言った。
「えっ?」
「居間でおっぱじめる気か? ケダモノ。俺は初心者なんだぞ。もっと丁寧に扱え。それが恋人に対する最低の礼儀だろうがっ!」
「いや・・・あの・・・」
「それに、事前にシャワーくらい浴びさせろ。バカ!」
 ケダモノとかバカだとか、それこそ恋人に対する言葉ではないと思ったが、それを口にするほど俺はバカではなかった。そう言えば10倍以上になって戻って来るのは目に見えている。口では俺は伊織に勝てないのも、過去の数少ない経験からわかりすぎるほどわかっているし。
「何か文句でもあるのか?」
「ありません・・・・」
 俺は項垂れるしかなかった。
「するのかしないのか、どっちなんだ?」
 意識的にやっているのかどうかわからないが、伊織の流し目にも俺は勝てない。あっさりと白旗を振ることにした。
「します。したい。させてください」


 12

 なんであんなこと言ってしまったんだろう? 熱に浮かされたようになってる頭では、まともな考えが出るはずもなかった。俺は熱めのシャワーに打たれながら、どうしようか迷っていた。
 あんなキスするから・・・・
 だから、愛されてるんだってわかったし、許してもいいと思ったけど・・・
 未経験なのに、どうすればいいんだ? 怖くないといったらウソだよな・・・・だって、この場合俺が抱かれるんだよな・・間違いなく・・・・
『するのかしないのか、どっちなんだ?』
 冷静になって考えれば、スゴイ台詞を口にしたもんだ・・・後悔先に立たずだよな・・・・
「伊織ぃ! のぼせてないか? 早く出て来いよぉ」
「急かすなっ! 慌てる乞食は貰いが少ないって言うだろうがっ!」
 あぁ・・・俺ってば素直じゃない・・・・・