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「いってぇー・・・なんでだよ・・・・ったく・・・」
うわっ・・・声がガラガラに嗄れちまってる・・・全身がギシギシ軋んでいるようだ。口には出して言いたくない場所が、激痛の発信源だった。
理由はわかっている。
亜南と・・・ヤッちまったんだよな・・・
信じられないけど、両思い・・・ってんだよな・・・・
でも・・・痛い・・・サギだ・・・こんなの・・・・途中から覚えがないところみたら、失神しちまったんだろうな・・・
「今、何時だ・・・?」
ベッドから降りようと思ったけど、腰砕けになって無様に落っこちてしまった。
「伊織っ! 大丈夫かっ!?」
物音を聞きつけて、必死の形相で亜南が飛び込んで来た。
愛されてるじゃん・・・俺・・・
「大丈夫なもんか・・なんで俺だけこんな目に合わなきゃならないんだ・・・家に帰れないじゃないか・・・責任取れよ・・・バカッ、ケダモノ」
俺が口汚く罵るのを黙って聞いていた亜南は苦しげに顔を歪めた。
「泣くなよ・・・伊織・・・」
「えっ・・・?」
「なんで泣くんだよ・・・そんなにイヤだったのか?」
広い胸に抱き締められて、頬にキスされて初めて俺は自分が涙を流している事に気付いた。
「泣くなよ・・・伊織・・・」
そのまま口唇が重なり、砂を吐くような甘ったるい気分にされられる。コイツってば、ロマンチストだったんだな・・・・なんて、泣きながら思うことじゃないよな・・・って、冷静に観察する俺の性格がつくづく恨めしくなる・・・
「イオ兄ちゃんをいじめるなっ!」
亜里の叫び声で、俺達は我に返った。
「兄ちゃんのバカヤロー! イオ兄ちゃんを泣かせたなっ!」
「いでででででっ! やめろっ、亜里!」
亜里に噛みつかれて、亜南は俺を解放した。
「イオ兄ちゃん、大丈夫? 兄ちゃんにいじめられたの? ドコか痛いの? 泣かないでよ・・・お願いだから・・・」
自分の方がボロボロ涙を流しながら、亜里は俺を気遣ってくれた。俺は気付いたら亜里を抱き締めて一緒に泣きじゃくっていた。
決して悲しいんじゃない、これって嬉し泣きなんだろうな・・・
実の兄以上に思って慕ってくれてる亜里、恋人として愛してくれる亜南。クールをウリにしてた俺の心を、暖かく溶かしてくれた愛しい二人。俺って幸せ者なんだろうな・・・
「二人とも、ちったぁ落ちついたか?」
目の前にミルクたっぷりのコーヒーが湯気を立てている。口に含むと、これでもかってくらい甘かった。
「甘過ぎる・・・」
ガラガラに掠れた声で文句を言うと、亜南はジロッと睨んだ。
「ガキにはこれくらいが丁度いーんだよ。そんな声になるまで大泣きしやがって・・・」
「ガキで悪かったな・・・この声の原因は泣いたからじゃないぞ・・・」
「うっ!?」
亜南は、俺の皮肉に怯んだ。
「僕はガキなんかじゃない!」
亜里は鼻息も荒く、目元を赤く染めて憤慨していた。
「ヘンっ! すぐムキになるところがガキの証明だ」
亜南に鼻で嘲笑われて、亜里は頬を膨らませた。
「この中で1番の年寄りが僻んでるんだ。亜里、気にしなくていいぞ」
「イオ兄ちゃん・・・」
俺の言葉に亜里の膨れっ面は、一気に笑顔に変わった。