あの電話以来、亜南は俺に近づいてこなかった・・・というより、亜南が来る気配を感じたら俺が避けまくってたというのが正解だったが。
何か言いたげな目をして俺のことを見ているようだったが、それも意識して無視することに努めた。捨てられた子犬のような情けない表情には胸が痛んだが、それも無理やり知らん顔した。
クラスのみんなは俺と亜南の様子がおかしいと、何やらヒソヒソやってるようだけど、直に治まるだろう。しばらくの間辛抱すればいいだけさ。昇段試験も中間テストだって近いんだ。忙しくしていたら、こんなトゲが刺さったような胸の痛みも、すぐに消え去るはずさ・・・
21
「気付いてくれてないみたいだから、ハッキリ言おうと思って・・・」
昼休み、山野に呼び出された俺は、屋上に来ていた。
「気付いてないって?」
「アタシ・・・河本クンが好きなの」
「――――!?」
「吉木クンとホモだなんて噂は、ウソなんでしょ? 誰ともつきあってないなら、アタシとつきあってくれない?」
「え・・・でも、俺・・・いいけど・・・」
苦し紛れにどっちともつかずの返事をした俺に、山野は抱き着いてきた。
「うれしいっ!」
伊織とは違う柔らかな身体に、俺は腕を回した。
「河本クン・・・」
俺を見上げて山野はそっと目を閉じた。
コレって、キスしろってことだよな? 女のコがここまでするんだし、仕方ないか・・・どうせ伊織にはフラレちまったんだし・・・・
キスってそんな風にするもんじゃないと思ったけど、俺は投げやりな気分で触れるだけのキスをした。
それを新聞部のヤツらがカメラに収めてるとも知らずに。
中間テストを控えて、掲示板に時間割が貼り出された。そして、その隣に新聞部も号外を貼って行った。
見だしはこうだ。
『1年のアイドル山野美月ちゃんと、野球部の自称次期エース河本亜南君との交際発覚!!!』
ご丁寧にもビックリマークが3つもついてる上に、キスシーンの写真まで付いていた。
(ヤッだー! まじキスしてるじゃん)
(美月が自慢してたけど、ホントだったんだぁ?)
(確かにハンサムだけど、なんで河本なんだよ?)
(俺、山野狙ってたのに・・・)
顔面蒼白になるのを感じながら目をやると、伊織は顔色も変えずに紙面を眺めていた。
伊織のコメントも載っていた。
『これで僕の名誉も回復されましたね。河本君にはおめでとうと、心から祝福しますよ。ところで、疑惑が晴れたんだから、どなたか僕にもカワイイ女のコを紹介してくれませんか?』
(アタシ立候補したいかもー!)
(無理無理! やめときな。アンタの成績じゃ涼しい顔でゴメンナサイされるって)
(ヒッドーイ!)
心から祝福?
みんなはチャイムが鳴っても、センセーが来るまでキャンキャン騒いでいたが、ショックが大き過ぎて、俺の耳は聞くことを拒絶していた。