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「またホカ弁なのか? お前の作るカレーライスよりはマシだけど、いい加減食い飽きたぞ。何で伊織クンは来てくれないんだ? ケンカしたならさっさと謝って許してもらえ」
 親父はブツブツ文句を言っていた。亜里は亜里で思い出してはメソメソ泣いていたが、俺は思考回路がショートしたままだった。
 なんとかしなきゃとは思うが、焦れば焦るほど考えがまとまらない。山野にはつきあうって言ってしまったし、キスもしてしまった。証拠写真まで撮られてるんだから、伊織がそう簡単に許してくれるとは思わない。嫉妬深いって言ってたし・・・・・
 でも、好きなのは伊織だけなのに・・・・
「・・・ちゃん。兄ちゃんってば!」
「・・・えっ?」
「何ぼんやりしてるんだよ。電話だって言ってるのに」
「あ? あぁ・・・・」
 テーブルの上でブルブル震えているケータイをとった。
『あ・・・河本クン・・・・』
「山野・・・何かあった?」
『遅くにゴメンね。あのね。テストが終わったら晩ご飯作りに行ってもいい? 名誉挽回したくて・・・ちゃんとママにいろいろ教わったから、今度は大丈夫だから・・ダメ?』
 甘えるように言われると断れないじゃん・・・
「別にイイけど・・・」
『よかった。本当は声も聴きたかったの。じゃあ、テスト前だからもう切るね。おやすみなさい、また明日ね』
「あ・・おやすみ・・・」
 俺は自己嫌悪で泣きたくなった。なんでちゃんと断れなかったんだろう。俺が聴きたかったのは山野の声じゃない、伊織の柔らかいテノールなのに。
 やっぱ、断らなきゃ・・・・
 中間テストが終わったら、ハッキリ山野には断るんだ。そして、伊織ともう一度ちゃんと話をして、俺の気持ちをわかってもらうんだ。

 全教科のテストが終了してすぐに、俺は山野のとこに行った。
「ごめん。やっぱ俺、山野とはつきあえない」
 いきなりそう切り出した俺に、山野は最初、何を言われたのかわからなかったようで、キョトンと見上げた。
「どうして?」
「俺、好きな人がいるんだ」
 山野は案の定、泣き出しそうに顔を歪めた。クラスのみんなはチラチラとこちらを伺っていたけど、気にならなかった。
「それって、吉木クンなの?」
「そうだ」
 俺の言葉に、伊織が弾かれたようにこっちを振り返ったのがわかった。
「ごめん。やっぱり山野じゃダメなんだ・・・」
「どうして? キスしてくれたじゃない?」
 山野の悲鳴のような声に、クラスのみんなが固唾を飲んで見守っている。もう、ホモのレッテルを貼られようが、野球部を退部になろうがかまうもんか。
 伊織を失うことより怖いことなんて、俺にはないんだから。
「理屈じゃなかったんだ。山野とのキスじゃなにも感じなかった・・・」
「・・・・バカにするのもいい加減にしてよね! このホモ野郎っ!」
 山野の叫び声と共に、凄まじい襲撃が俺を襲った。尻餅をついて初めて、鞄で殴られたんだとわかった。