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 亜里の足も大分よくなったようで、今日は友達とサッカーをする約束をしたからと言って出かけて行った。
「今日は冷麺がいいな・・・そろそろシーズンだって今朝テレビでやってたんだ」
 そうリクエストして。
 それに応えるために買い物に出かけようとした時、亜南が息せき切って帰ってきた。
「伊織っ!」
「亜南・・・お前、クラブはどうした?」
「母ちゃんの具合が悪いからって休んで来た。早く伊織を抱きたくてガマンできなかったんだ」
 呆れて声も出せずにいた俺が抵抗する間もなく、抱きすくめられて口唇を奪われていた。
「ん・・・・ぅ・・・」
 濃厚に舌が絡んでくる。だめだ・・・身体が熱くなってくる。立っていられなくなる・・・
「伊織・・・愛してる・・・」
 名残惜しげに離れた口唇が耳に移動して、そう熱く囁かれると俺の身体は見事に反応した。
「バ・・ッカ野郎! ケダモノ! こんな玄関先でやる気かっ!? 学習能力がないのか、お前はっ!」
 鳩尾に容赦ない一発を叩き込むと、亜南は玄関先で沈没しながら俺を恨めしそうに見上げた。
「伊織ちゃんの愛情表現って・・・過激・・・・」
「俺はキレイ好きなんだ。シャワーを浴びてからじゃないとイヤだって言ったろうが!」
 言ってしまってから、自分の言葉に恥ずかしくなって俯いた俺の顎を持ち上げて、亜南は羽のように軽いキスを落として言った。
「じゃあ、一緒にシャワー浴びよう・・・」
 俺が、らしくもなく頷いてしまったのは、ムードに酔ってしまったからだ・・・きっと・・・
 俺って流されやすかったのか・・・・・
 また新しい発見だな。亜南と知り合ってから、どんどん俺の知らなかった一面が見えてくる。
 俺も知らなかった本質が、亜南によって暴かれていくようで、怖いような気がする。
 これって、亜南が運命の男だったってことなのかな・・・・


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「なぁ、俺のこと好きだって言ってくれよ・・・」
 俺は腰をグラインドさせながら、お願いしていた。
「やっ・・・んんっ・・・」
 俺の背中に爪を立てて喘いでいる伊織には、俺の声なんて聞こえていないのかもしれない。でも、聞かずにはいられなかった。
 だって俺は伊織から何も聞いていないんだ。顔は気に入ってくれてるみたいだけど、好きだって言うのはいつも俺ばかりだし・・・・・・
 伊織が好きでもないヤツに身体を開いたりしないってことは、百も承知だけど、一度くらい伊織の口から聞きたいって思ってもバチは当たらないだろう?
「言えよ・・・伊織。俺のことが好きだって・・・」
 そろそろ限界が近い。
「好き・・・・亜南・・・・好き・・・」
 切れ長の目から、一筋涙が零れ落ちた。伊織はうわ言のように好きだと繰り返した。
「俺も好き・・・」
 嬉しくてしなやかな身体をギュッと抱き締めたら、伊織も俺を抱き締めてくれて、俺達は身も心もひとつになった幸せを感じながら、ほぼ同時に弾けた。