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「言わない! 誰もそんなこと言わないけど・・・僕・・・僕・・・・」
「そんなこと思ってたなんて知ったら、頑張って産んでくれた母ちゃんが悲しむぞ。母ちゃんは、いつも亜里にはニコニコ笑って、元気でいてもらいたいと思ってるはずなんだから。そう思わないか?」
俺は、零れ落ちそうな程目を見開いている亜里の側に行くと、頭を撫でてやった。一体いつからこんな小さな胸を痛めていたのだろうと思うと、今日初めて出会ったばかりなのに、亜里のことが無性に愛しく感じられた。
「イオ兄ちゃんっ!」
亜里は俺にしがみつくと、ワンワン声を上げて泣き出した。
可哀相に。初対面の俺に泣きつくなんて、よっぽど辛かったんだろうな。誰にも言えずに、この子は健気にも我慢していたんだろう。
「大丈夫だよ・・・亜里が元気に学校へ行って、友達と仲良く楽しくやってるのを、母ちゃんは望んでいるはずだから・・・」
俺は、亜里の気の済むまで抱き締めて、囁き続けた。
「大丈夫だよ・・・」
「じゃあ、伊織はしばらくその子の家で、シェフを務めるってんだな?」
高校からの同級生で会社の同僚、かつフィアンセの真純(ますみ)さんとのデートからご機嫌で帰宅した兄の史織(しおり)は、俺の話を了承してくれた。
「本当にいいかな?」
「いいかなって、もう決めたんだろ? お前が口にする時には、もう最終決定事項だってことは、よく理解してるさ」
モットーって訳ではないけど、男に二言はないって言葉は好きだ。
「俺は毎日デートでもいいけど、真純に料理を作りに来てもらってもいいかなとも思ってるんだ」
「はいはい・・・・好きにしてくれ・・・」
「で、そんなに美少女だったのか? まさか、弟がロリコンだったなんてなぁ・・・」
「男のコだぜ・・・亜里は・・・」
半ば呆れ顔の俺に、兄貴は目を丸くした。
「ショタコンだったのか・・・」
「そんな訳ねえだろっ! そんな邪道は真純さんの趣味の小説の中だけだ! 兄貴まで洗脳されてんじゃねぇよっ!」
亜里を愛しいと思ったのは確かだけど、恋愛感情なんかじゃない。しいて言えば、弟ができたような、そんな感じなんだ。