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 放課後、帰宅部の俺は、亜里の家に行くために早々に校門を出た。
 お詫びに行くんだから、ケーキでも買っていく方がいいかな。
「しまった・・・女のコにおいしいケーキの店を訊いておけばよかった」
 後悔しても後の祭、不味かったとしても俺の所為じゃないからいいか・・・
 商店街の、可愛らしい店構えのケーキ屋で、ショートケーキを5つばかり買って、亜里の家に向かった。

「こんにちは。吉木です」
 チャイムを押して名乗ると、亜里が挫いた左足を引き摺りながら出てきてドアを開けた。
「こんにちは。イオ兄ちゃん。今日は兄ちゃんもクラブ休んで早く帰ってきてるの」
 亜里はニコニコ笑っている。
 うん、やっぱりその方が可愛いや。
「そっか。これはお詫びにケーキを買ってきたんだ。デザートに食べような。で、今日は何を作って欲しい?」
「わぁ、ありがとう。今日はね、兄ちゃんがトンカツ食べたいって」
「わかった。じゃあ、俺は買い物に行ってくるから、このケーキを冷蔵庫に入れておいてくれるかな」
 鞄と上着を置いて、買い物に出かけようとすると、ダダダダっと階段を駆け下りてくる派手な音がした。
「吉木!?」
 名前を呼ばれて振り返ると、そこにはクラスメートの顔があった。
 ワイルドなハンサムだと女のコに騒がれている、イチローカットで長身の、自称野球部の次期エースの・・・・
「河本・・・亜里の兄ちゃんって、お前だったのか・・」
「えっ!? じゃあ、イオ兄ちゃんって、吉木?」
「あぁ・・・俺の名前は伊織ってんだ」
 お互いに呆けた顔を見合わせていたら、亜里が驚いたように声をかけてきた。
「二人とも、友達?」
「クラスメートだ」
 俺は辛うじてそれだけ言うと、買い物をする用事を思い出して、踵を返した。
「待てよ。俺も行くからさ」
 河本が慌てて靴を引っ掛けて、俺を追ってきた。
「済まなかった・・・亜里に怪我させたりして・・・」
 いきなり頭を下げた俺に、河本は困ったような顔をした。
「亜里に聞いたけどさ・・・出合い頭の衝突なんだから、お前だけが悪いんじゃないだろう? そんなに責任を感じることはないさ」
 それって、俺が昨日、泣いている亜里に言ったセリフに似てる・・
 河本は170センチある俺よりも、まだ10センチ程背が高かった。見上げた俺に、真っ黒に日焼けした顔が、ニヤッと白い歯を見せて笑った。
「昨日の酢豚、美味かったぜ」
 ウインクされて、俺は不覚にも赤面して、目を逸らしてしまった。
「そりゃ、どうも・・・まだ主夫暦は2年なんですがね・・・」
 照れ隠しに経口を叩く。
「お前んちも母ちゃんがいないんだってな。ウチで料理なんかしててもいいのか?」
「あぁ・・・兄貴のフィアンセがいるから、いざとなったら来てくれるんだ。ウチには小さな子どもがいないしな・・・」
 受け答えしながら、俺の心臓はバクバクしてた。何でだよ・・全く・・・
「ふーん。そうなのか・・・なら、今日はウチでメシ食ってけよ」
「今日はそのつもりで来たんだ・・・その・・・親父さんにちゃんとお詫びしなきゃと思ってたし・・・」
 河本の顔を見る事ができずに、うつむいたままボソっと言った俺に、河本は予想外の答えをくれた。
「あ・・・ソレな・・ダメだわ・・・父ちゃんさぁ、トラブルに巻き込まれちまって、解決するまで帰って来れなくなったんだと・・・」
「えっ!?」
 思わず顔を上げた俺に、河本は申し訳なさそうに頭を掻きながら笑った。