「キスしてもらっちゃった・・・・」
週が明けた月曜日。早速元気と茜に一部始終を報告した。
「よかったじゃない。ユキ、おめでと」
頷く之の頬は幸せ一杯って感じで、バラ色に輝いていた。
「へぇー。とうとうユキもオトナになったんだ?」
オトナという元気の言葉に、之は嬉しそうに笑った。
「で? してもらったのはキスだけ? どんな感じだった?」
茜は興味津々で訊いてくる。
「えっと・・・ちょっとひんやりしてた。僕が発熱してた所為だったんだけど・・」
そう、クラゲに刺された上に溺れて、三途の川を渡る寸前で引き戻された之は、ストレスの為か発熱していたのだった。
「だから、史朗ちゃんにキスしてって迫ったり、涙が止まらなかったんだって・・・」
キスした後、いつまでも子どものように泣き続ける之の様子がおかしいと史朗が気づいたのは、抱きしめている身体が熱いと感じたからだった。
それからは、熱さましのシートを買いに行ったり、ぐずる之に薬を飲ませて寝かしつけたり、史朗は大変な思いをしたのだった。
「なんだ。じゃあ、オトナのキスをしてもらった訳じゃないんだ?」
元気はガッカリしたように言った。
「うるさいわね。アンタと違って、史朗さんはファーストキスに濃厚なのをブチかますようなケダモノじゃなかっただけでしょ」
茜のイヤミにも慣れたもので、元気は肩をすくめただけだった。
「お・・・オトナのキスって・・・?」
「オトナのキスってのは、舌を絡めたり吸ったり唾液を交換したりする、ドロドロにイヤらしくて濃いヤツ。聞いたことくらいあるだろ?」
史朗にキスしてもらってからずっと舞い上がっていた之は、元気の言葉を聞いて、背中から氷水をぶっかけられたようなショックを受けた。
「げ・・・元気と茜もそんなキスしてるの?」
「恋人なんだから当たり前だろが」
之は目の前が真っ暗になった。
「こ・・恋人・・・・」
「口唇が触れ合うだけのキスなんて、外国じゃ子どもでもしてるっての」
とどめを刺されて、之は真っ白になってフリーズした。
「之・・・・どうした?」
バスルームから出てきた史朗が見たのは、リビングのソファの上でひざを抱え込んだ之の姿だった。
「また熱がぶり返したか? 調子悪かったならメシの仕度はしなくてもいいって言ったのに、やっぱり無理したんだな」
史朗がバイトから戻ると、テーブルの上には、今日も茜の指導を受けた之の力作が並んでいたのだった。食事中の之はいつもより大人しかったけど、特に変だとは思わなかった。
「之? ホントにどうしたんだ?」
顔を覗き込むと、之は上目遣いで史朗を見た。
「子ども扱いしないでって言ったのに・・・」
「あぁ? 何だって?」
「大人のキス・・教えてよ」
之の言葉に、史朗は脱力した。
「之・・・お前ね・・受験生なのに、ナニ色気づいてんだよ」
「受験生は恋をしちゃいけないって・・・史朗ちゃんはそう言うの?」
真剣な之の表情に、史朗は気が遠くなる思いがした。
「そうは言わないけど・・」
之の想いを受けとめる訳にもいかず、ただ史朗は困惑した。