予備校の帰りに元気と茜と待ち合わせをして、いつものように買い物を済ませて戻ってきた。テーブルの上の史朗からの手紙に気づいたのは元気だった。
「おい、ユキ。朝、テーブルの上の手紙見なかったのか?」
「え? そんなの知らない・・・」
「出張のお供で大阪に行くって書いてあるわよ。1週間ほど戻らないって」
「えぇっ!? まじッ?」
 今日も気合満々だった之の気力は一気に萎えた。1週間も戻ってこないなら、食材を冷蔵庫にしまっておいても使えなくなる。一人で食べきれる量でもなかった。
「どうしよう・・・ねぇ、二人とも今日はウチでご飯食べてってよ」
「いいわよ。母さんには外で食べてきてってメールすればいいし」
 茜が快諾すると、元気もうんうんと頷いた。
「よかったら泊まってってくれてもいいからさ」
 之がそう言うと、茜が一つ提案した。
「泊まるのは明後日の土曜日の夜にしない? 次の日休みだし保護者がいないし、ちょっと遅くまで外で遊んでても叱られないわ」
「わーい、賛成ー」
 当然のことだけど、その時の之はこれから自分に降りかかる不幸を知らなかった。


「まだ買うの、茜? 一体いくらお金持ってきたんだよ」
 土曜日。兼ねてよりの予定通り、予備校が終わってから街へと繰り出した之と元気は、茜のショッピングにつきあわされていた。
「こうなることはとっくの昔に予想済みだろ。諦めろ、ユキ」
 既に之も元気も両手に山ほどの紙袋をぶら下げている。
「でも、いい加減おなか減ったよ」
 時計の針は午後7時を指していた。
「もう、これくらいのことでだらしないわね。二人とも」
 茜は大量の荷物を持たされた上に空腹でふらふらになっている男連中にため息をついた。
「仕方ないわね。腹が減っては戦ができぬって言うから、先にご飯にしましょうか」
「えーっ! メシ食ってからもまだ買い物するのかよ?」
うんざりしたように元気は悲鳴を上げた。
「いちいち文句を言わないで。さぁ行くわよ」
 茜は先に立って歩き出した。之と元気は力なく後に続くしかなかった。
「何食べたい? やっぱ、焼肉かな」
 之と元気の返事も聞かず、茜は食べ放題の看板を掲げた焼肉店に入っていった。
「やっぱ、茜の尻の下に敷かれるね。元気」
 之の言葉に元気は思い切りイヤそうな顔になった。

「さぁー。おなかもいっぱいになったし、次行くわよっ」
 食べるだけ食べて満腹になった茜は、意気揚々と目当ての店に向かって歩き出した。
「一体茜の財布には、いくらお金が入ってるんだよ?」
 気持ちよく散財している茜に、之は心配になってきた。
「5万とか言ってたかな・・・小遣いやお年玉を貯めてた一部らしいけど・・・」
 元気は茜の行動に文句を言う気はないらしい。諦めたように黙って後をついていくだけだった。
「見るからにヘンなもの買ってる訳じゃないからいっか・・・・まぁ、僕らの体力が続く限り従うしかなさそうだね。特に僕はずっと茜に甘えっぱなしだし・・・」
 之も、いつも世話になってるお礼になるならと、元気に続いて茜の後に従った。
 その時之が振り返ったのは、虫の知らせというやつだったのかもしれない。視線の先には大阪にいるはずの史朗がいて、その隣で早苗が微笑んでいたのだった。

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