ドサッと物が落ちる音がしたので元気が振り返ると、之が呆然と立ち尽くしていて、手に持っていた紙袋が辺りに散乱していた。
「あっ、ユキ。何やってんだよ!」
 元気の声に茜も振り返った。
「ちょっ、やだ。何やってんのよ、ユキ」
「ユキ?」
 二人の呼びかけにも反応しないで、之は顔面蒼白になっている。流石に様子がおかしいと、元気は之がばら撒いた紙袋を拾った。
「一体どうしたっての?」
「ごめん・・・僕帰る」
 茜の問いかけに之はそう呟くと、呆気にとられる二人を残して走り去った。
「待てぇっ! これを俺一人で持てってのかよ、ユキっ!」
 元気が叫んだが、之は振り返りもしないで行ってしまった。
「茜さん・・・・半分持ってくださいませんか?」
 半泣きの元気に、茜は3分の1だけ持ってやった。

「ダメ・・・全然出てくれない・・・」
「今夜のお泊りはどうなるんだよ?」
 元気と茜は之の態度がおかしくなった理由がわからず、途方に暮れていた。電源を切ってしまっているのか、何度携帯にかけても留守番サービスにつながる。
「ちょっと気になるから、とにかくユキんちに行ってみましょう」
 もう何軒か行きたかったけど、茜はショッピングを諦めて駅へと向かった。元気も山ほどの荷物を抱えて従った。

「戻ってないのかしら?」
 呼び鈴に応答もないし、何より灯りもついていなかったので、之は戻っていないのかもしれない。元気と茜は顔を見合わせた。
「本当に急にどうしたのかしら・・・元気、何か見た?」
「わかんねぇよ。荷物が落ちる音で振り返ったときには、ユキは真っ青になってたんだから・・」
「ユキがあんな風になるのは、今大阪にいるはずの史朗さん絡みだとしか考えられないけど・・・・その史朗さんを見た・・とか?」
 茜の疑問に元気は肩をすくめることで答えた。
「ユキがいないのに、グダグダここで考えててもどうしようもないぜ。今夜どうする?」
 元気の言うことももっともで、茜はため息をつくと顔を上げた。
「ウチに来る? 今夜ユキの家に泊まるって言ったら、母さんもカレシんちに行くって言ってたから・・・」
「行くッ!」
 元気は即答した。

 之は部屋にいた。
 史朗と早苗の仲むつまじい様子を目の当たりにして、目の前が真っ暗になった。後はもう、何がなんだか訳がわからなくなって、元気と茜を放り出して、一目散に戻ってきた。
 ただ、一人になりたかった。もう、何も考えたくなくて、何にも煩わされたくなくて、携帯の電源も切った。家の鍵もかけて灯りもつけずに、ただひたすら自分のひざを抱えていた。
 悲しみも極限を超えると心が麻痺してしまうのか、不思議と涙は出なかった。之は目を閉じて夜の闇の底でうずくまっていた。

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