「ちょっ・・元気、ヤだ・・いきなり・・」
 茜の家に着くと、元気は玄関先に荷物を放り出して、勝手知ったる部屋へ茜を引き摺って入っていった。
「うるせー。今までお前の言う通りに荷物持ちしてやったんだから、今度は俺の言うこときいてくれたっていいだろ」
 茜をベッドに押し倒しながら、元気は凄んでみせた。
「だからって・・・シャワーくらい浴びさせてくれてもいいでしょ。あれだけ歩き回ったんだから・・・」
 腕を突っ張って抵抗したが、ケダモノと化した元気の前ではなす術もなかった。

 キャミソールの上に透ける素材のブラウスを羽織っているだけだった茜は、一瞬のうちに裸に剥かれた。
「やだっ、元気・・・・一体どうしちゃったのよ?」
 性急にコトを推し進めようとする元気に、茜は戸惑った。
「お前は俺のモンだってこと、わからせてやる」
 口調は冷静さを保っているようだったが、元気の内には激情が熱く渦巻いていた。
「今更・・・」
「わかってんだよ!」
 訳がわからず戸惑う茜をきつく抱きしめて、元気は悲鳴にも似た叫び声を上げた。
「げ・・んき・・?」
「お前がユキに対して恋愛感情なんか持ってないってこと・・・わかってんだけど・・・」
 苦しそうに呟くと、元気は赤ん坊のように茜の胸にむしゃぶりついた。
 長年のつきあいで少々マンネリ化していた関係に、嫉妬は適度なスパイスになったようで、元気と茜は久しぶりに甘い一夜を過ごした。

「いないわ・・・一体どこに行ったのかしら?」
 翌日、昼過ぎに起きた元気と茜は、之の携帯に電話したが相変わらず繋がらなかったので、家の電話にもかけてみたが留守電になっていた。流石に心配になって訪ねてきたのだった。
「ユキ以外誰もいないんだから、家出って訳じゃないだろうしな・・・」
 二人がどうしようかと途方に暮れていたら、中からドアが開いた。
「いたのか、ユキっ!」
「どうして電話に出てくれなかったのよ。心配したじゃない」
「ごめん・・・」
 謝る之の服装はゆうべのままで、あまりに憔悴しているので、元気も茜も息を飲んだ。
「一体何があったの?」
 優しく尋ねる茜に之は首を振った。
「ごめん・・・一人にしておいてくれる?」
「でもユキ・・そんな状態でほっておけないわ・・・」
 茜が頬に伸ばしてきた手を振り払い、之は悲鳴のような叫びを上げた。
「お願いだからっ! ・・・一人で考えたいんだ・・・だから・・・僕を一人にして・・」
「わかった。でも、一人で考えてもわからなかったら、俺らがいるってこと忘れるなよ」
 元気は口唇を噛み締めて俯いた之の肩を優しく叩いた。


 元気と茜が納得できないながらも之の意向を汲んで引き上げていってから、之はシャワーを浴びることにした。ゆうべ、茜の買い物につきあって歩き回ったままだったし、身体がさっぱりしたら、何か気分も良くなるかもしれないと思ったからだった。
 しかし・・・
(ゆうべ、史朗ちゃんはあれからどうしたんだろう? 何日も風呂に入らずにいる訳はないし、大阪にいなかったなら、どこで? 早苗さんと一緒に?)
 そう思い至った途端、熱いシャワーを頭から浴びてるはずなのに、心の芯から冷えていくのを感じた。

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