(早苗さんと・・セックス・・・してるの?)
一度マイナスに向いた考えは、坂を転がり落ちるように暗く深い奈落の底に落ち込んでいく。
(史朗ちゃんは・・・どんな風に早苗さんを抱くんだろ?)
史朗が誰かと抱き合ったと考えるだけで、悔しくて悲しくて叫びだしたくなる。里奈でも早苗でもなくて、自分だけを抱いて欲しいのに・・
史朗が一瞬だけ触れてくれた口唇を人差し指でなぞる。
(大人のキスって・・・どんな感じなんだろう?)
舌で口唇を舐めると不意にフラッシュバックが起こった。
「――――っ!」
舌を絡められて、痛いほどに吸い上げられる。溢れた唾液があごを伝って落ちる。吐息ごと奪われるようなキスを之は思い出して、愕然と目を瞠った。
「ウソ・・・・」
どうして今まで忘れていたんだろう。身体だけでなく心まで震えるほど感じさせるような情熱的なキスを。
(あんなにイヤらしいキスされたんだ・・)
そう思うと下半身に熱が集まるのを感じた之は、浴室に座り込んで滾る自身を慰めた。
「しろ・・・ちゃ・・んっ・・」
シャワーが吐き出した白濁を流していく。之は自己嫌悪で情けなくなって涙が溢れてきた。
(僕がこんなにイヤらしいから、大人のキスしてなんて迫ったりしたから、史朗ちゃんはウソついてまで出て行ったんだ・・)
史朗が之にウソをついた訳が愛想をつかしたからだと思った之は、シャワーに打たれながら長い間泣き続けていた。
「暑い・・・」
シャワーとはいえ、のぼせる寸前まで熱い湯に打たれ続けていたので、バスルームから出てきた之は、トランクス1枚で冷房の効いたリビングのフローリングの床に寝転がった。
「喉渇いたな・・・」
あまりのショックでゆうべから、全く食事をしていなかった之は、立ち上がるのも億劫になっていた。
「水・・」
床を這って冷蔵庫まで行き、紙パックに半分ほど残っていたオレンジジュースを一気飲みした。再びリビングに戻って来たところで之は力尽きて床に大の字に寝転がった。
「腹減り過ぎて力が出ないよ・・・」
死ぬかと思うほど泣いたのにおなかが減って、まだ生きてるということを思い知らされる。
(このままご飯を食べずにいたらどれくらいで餓死できるんだろう・・・ それまでに史朗ちゃんが帰ってきてくれるかな・・)
之はそんなことを思ううちに、寝入ってしまった。
「寒い・・・・」
あまりの寒さにふと気がつくと、部屋には煌々と灯りがついたままになっていた。トランクス1枚しか身につけていないのに冷房もつけっぱなしにしたままで、フローリングの床に直接寝ていたので、身体は冷え切ってあちこちが痛かった。
時計の針は11時を指していたが、元気と茜が来たのが午後2時過ぎだったから、まだ日付は変わっていないのだろう。
「風邪ひきそう・・・」
ベッドに行こうと、のろのろと立ち上がろうとしたが、力が入らなかった。
「あれ・・・世界が回る・・・」
頭を動かそうとするだけで割れるように痛んでめまいが起きた。
「やべぇ・・・風邪ひいたかも・・・」
このままではいけないと、渾身の力を振り絞って立ち上がり、冷房を止めると這うように自分のベッドに転がり込んだ。そこで力を使い果たした之は、ブラックアウトした。